Neetel Inside 文芸新都
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「フフ。あなたが音速の剣士?」
 四柱神の一人、唯一の女魔族であるディーレが言った。ディーレの容姿は、人間の目から見ても美しいと言えた。透き通るかのような白い肌。整った顔。その顔の半分を、赤い髪が覆い隠している。
「そうよ」
「フフフ。そう」
 ディーレがクスクスと笑った。いや、あざ笑っている。セシルがキッと睨みつけた。
「あら、ごめんなさい。女とは聞いていたけど、思ったより、ずっとガキっぽかったから」
 ディーレは妖艶な美貌を持っていた。張りのある身体つきと言っていい。露出度の高いボンテージが、その色香をさらに際立たせる。
「ま、あなたの後ろの子よりはマシね。後ろの子なんて、色気って言葉が虚しく聞こえそうなぐらいだもの」
 エミリアが顔を俯かせた。
「……何が言いたいの? 言っておくけど、私達はあなたと美しさで勝負しようなんて思ってないわ」
「そんな事わかってるわ。ただ……そう。世界で誰が一番美しい女なのか。それを分からせてあげたかったのよ」
 ディーレが口の端を釣り上げた。不敵な笑みだ。
「くだらないわ。それに、あなたの美しさはすぐに無駄になる。私達があなたを倒す」
「バカねぇ。そんな事ができると思ってるの?」
 ディーレが腰の鞭に手を回した。取り出す。三本の鞭が一つにまとめられている。矢じり状の金属が、それぞれの鞭の先端に付いていた。
「グリンガムの鞭よ。聞いた事あるでしょう?」
 言って、ディーレが鞭を地面に叩き付ける。異様な風鳴り音と共に、鞭は強烈なしなりを見せた。地が破裂する。
 グリンガムの鞭。かつて、地獄の女王が使っていたとされる武器だ。鞭は魔界の龍の皮で作られており、羽のような軽さと鋼鉄をはるかに超える硬度を持っていた。特筆すべきはその攻撃力で、ただの一振りで生身の人間など肉塊に出来る威力を持つという。さらに、熟練した腕を持つ者が振るえば、三本の鞭でそれぞれ別の敵を攻撃できると言われていた。
「あなたの魔法剣で、私のグリンガムの鞭に対抗できる? ねぇ、死の音速の剣士さん」
 ディーレがクスクスと笑う。いや、目は笑っていない。セシルが歯を食いしばる。
「私は、生きて償うと決めた。そのために、魔界に来た」
 セシルが魔法剣を構える。目に闘志を灯らせた。
「フフフ。私、人間の女の子が大好きなの」
 瞬間、ディーレが鞭を振り上げた。
「女の子の悲鳴がねッ」
 鞭が飛ぶ。セシルが魔法剣で斬り払った。
「そう、あなたは魔法剣でどうにかできる。でも、もう一人はどうかしら?」
 セシルがハッと振り返った。エミリア。
「私なら、私なら大丈夫です」
 エミリアは鞭をかわしていた。地が破裂している。食らえば、ひとたまりもない。だが、エミリアの眼差しは強かった。
「後方支援、お願いするわ。エミリア」
 セシルが駆ける。

       

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