Neetel Inside 文芸新都
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 エミリアの両手から放たれた光。それは聖なる光だった。暖かい。セシルはそう思った。だが、ディーレは違う。光がディーレを焼いていく。
「あ、熱い!」
 ディーレが叫びをあげた。同時に光によって吹き飛ばされる。宙吊り状態のセシルの足から鞭が解かれ、セシルは背から地面に落ちた。あの暖かい光は。セシルはそう思った。エミリアの力。暖かくて、心が安らぐ。
「セシルさん!」
 エミリアがセシルに駆け寄った。両手を身体に添える。
「……エ、エミリア、ありがとう」
「喋らないで! ベホマ!」
 癒しの呪文。身体の傷を瞬時に治癒する完全回復呪文である。セシルの傷が見る見る内にふさがって行く。
 エミリアは恐怖を克服した。震えている場合ではない。自分も戦う。そう決意したのだ。エミリアの目。セシルを見つめる。セシルが目を瞑った。暖かい。ベホマの光だ。昔、母に感じた暖かさだ。セシルはそう思った。
「や、やってくれたわね……ッ」
 ディーレが身体を起こした。全身から煙があがっている。聖なる光によって焼かれたのだ。綺麗な白い肌は火傷でただれていた。
「私の美貌を、私の美しさを……!」
 ディーレが金切声をあげた。鞭を振り上げる。
「来る。エミリア、下がって」
 回復を終えたセシルが魔法剣を構えた。
「いいえ。私も戦います。ピオリム!」
 セシルの素早さが上がった。続いてバイキルト。攻撃力倍加呪文だ。
「……ありがとう。期待してるわ」
 セシルが駆ける。ディーレとぶつかった。
「虫けらがッ!」
 ディーレの鞭。三本の鞭がセシルの肌を掠める。斬り裂く。だが、セシルは怯まない。
 瞬間、ディーレが右手を引いた。この構え。セシルが身構えた。三本の鞭がしなる。グルグルと小さく回転、まとまった。
「螺旋打ち!」
 振り下ろす。セシルが身体をひねる。螺旋が空(くう)を突き抜けた。この技は一度見ている。ピオリムがかかっている今、一度見た技は貰わない。セシルの闘志が燃え盛る。
「隼斬りッ」
 魔法剣。閃光が二度きらめく。ディーレの血が宙を舞った。
「!? おのれぇっ」」
 金切声。ディーレがグリンガムの鞭を振り回す。地が破裂する。思わずセシルが距離を取った。ディーレが震えている。様子がおかしい。
「も、もう体裁なんて構わないわ。もう許さないんだから……!」
 そう言いつつ、ディーレが急に前のめりになった。赤い髪の毛が、白くなっていく。張りのあった白く柔らかい肌が、緑の鱗へと変わって行く。
「……来る!」
 セシルが言った。ディーレがゆっくりと顔をあげる。白い髪の毛を振り乱した。
「これであんたらはもう終わりよ」
 ディーレの顔は、般若そのものだった。

       

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