Neetel Inside 文芸新都
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 メイジが杖を構えていた。戦闘の構えである。敵は四柱神の一人であるグラファだ。
 グラファの容姿はお世辞にも威圧感のあるものとは言えなかった。老人なのである。それも、身長はメイジの腰辺りまでしか無い。だが、威圧感が無いのはあくまで容姿の話だった。その小さな身体の内には、凄まじい魔力を秘めている。メイジはそう思った。
「若き人間よ。名を申せ」
 緑のローブを整えながら、グラファが言った。声がいくらか高い。グラファには頭髪が無く、顔はシミとシワで覆われていた。
「人に名を聞くのなら、お前から名乗ったらどうだ」
「……本当に生意気なガキじゃの。魔人レオンにも、そういう所があった。懐かしいわい。懐かしすぎて、腹が煮えたぎるわ」
 グラファが眉間にシワを寄せた。
「その口ぶりだと、魔人レオンと会った事があるようだな」
 メイジのこの言葉に、グラファがシミだらけの口元を緩めた。メイジの言う通りなのである。グラファは、魔人レオンと会った事があるのだ。いや、それ所ではない。
「ワシは奴と戦った事がある。もう昔の話じゃがな。しかし、あの若僧の顔は今でもよく覚えとるわ」
「そしてお前は負けた」
「若僧、あまり調子に乗るなよ」
「……今日、お前はまた負ける」
「若僧がぁッ」
 グラファが右手を突き出した。次の瞬間。
「イオナズンッ」
 閃光。メイジがかわす。
「無駄に歳を取ったな!」
 沸点が低い。メイジが心の中で言った。メイジはわざとグラファを挑発したのだ。相手は自分よりも数百年、いや、数千年は生きているかもしれないという魔族なのだ。冷静状態のまま戦闘を開始するより、怒りを誘った方がこちらに分が回ってくる。メイジはそう考えた。
 神器、神の杖・スペルエンペラーを握り締める。全身の魔力が熱い。行ける。メイジが両手を突き出した。
「マヒャドッ」
 冷気系上等級呪文。無数の氷柱が吹き荒れる。グラファが右手を突き出した。
「ベギラゴン! 若僧、貴様は魔人レオンを超えられるか?」
 氷柱が火炎によって焼き払われる。
「超えられなければ、ワシには勝てん」
 グラファが右手を突き出した。
「何故なら、あの時よりもワシは強くなっておるからの!」
 メラゾーマ。火球系呪文。グラファの右手から放たれる。メイジが目を見開いた。火球系呪文なら。メイジはそう思った。自分が最も得意とする系統の呪文なのだ。両手を突き出す。
「メラゾーマッ」
 相殺を狙う。二つの熱球がぶつかり合った。衝撃波が円状に広がる。
「ほう! この魔力、かつての魔人レオンに匹敵するわい!」
 グラファがグッと右手を押し込んだ。僅かにメイジのメラゾーマが押し込まれる。
「ちぃっ」
「じゃが、魔人レオンに匹敵するだけではダメじゃ。ワシには勝てんッ」
 さらに押し込む。
「俺は魔人レオンとは違う!」
 メイジの神器が光り輝く。全身が熱い。魔力が上がる。次の瞬間。
「うぬっ!?」
 互いのメラゾーマが消し飛んだ。相殺。
「ホホ。右手だけではダメなようじゃの。ならば、ちと本気を見せてやるわ」

       

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