Neetel Inside 文芸新都
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 四柱神、この程度なのか。ヒウロはそう思った。ヒウロと対峙するは四柱神の一人、サベルである。青く逆立っている頭髪。鋭い目。黒い軽装鎧に身を包み、長剣を背負っている。
 サベルは四柱神のリーダー格だった。当然、その実力は四柱神の中ではトップを誇る。筋力や魔力といった、個々の力は他のメンバーが勝ってはいたが、総合力という観点で見れば、サベルが一番の実力者なのである。
 だが、そのサベルをヒウロは弱いと感じていた。睨み合いの時点で、ある程度の力が見えた。そして、剣を交えた。その時、サベルの動きが丸見えだった。そして、斬ろうと思えば、斬れた。決して、自惚れてなどいない。むしろ、ヒウロは自身の強さを信じ切れていなかった方だ。
 強くなったのか。ヒウロはそう思った。スレルミア河川で四柱神と出くわした時は、全身が恐怖で竦んだ。何も出来ず、ただ恐怖で震える事しか出来なかった。だが、あれから戦いを重ね、成長してきた。そして、今。あの四柱神を、弱いと感じている。これはヒウロにとって、不思議な感覚だった。
 自分はどこまで強くなったのか。そして、まだ強くなれるのか。ヒウロはそこに興味を持っていた。目の前のサベルには勝てる。確証は無いが、勝てる。そう思った。だが、サベルに勝てるからと言って、他の魔族に勝てるかどうかまでは分からない。ダール、ビエル、ディスカル。そして、父であるアレン。
 アレンとの戦いが切っ掛けで、ヒウロはその力を覚醒させた。だが、それでもまだ成長の伸び白が残っている。ヒウロはこの事については自覚がなかった。だが、この四柱神での戦いで、さらなる力を得る。ヒウロはそう考えていた。
 普通に勝つのではない。新たなる力を得るために勝つ。ヒウロは自らにそれを課した。魔界で、四柱神戦で、この余裕。ヒウロは無意識に口元を緩めていた。
「何がおかしい」
 サベルが睨みつけながら言った。こう言われてヒウロは、初めて自分が口元を緩めている事に気付いた。そして、目の前の敵が四柱神である事を再認識した。勝ててしまう。あのスレルミア河川で恐怖した四柱神に、勝ててしまう。
「貴様、本気を出してないな。先ほどのぶつかり合い、我はそう感じた」
 本気。この言葉が嫌に耳に残った。本気を出して良いのか。そうも思った。力が湧いてくる。父、アレンの時に覚醒したあの力。そして、魔界での戦い。強くなったのか。本気を出す。それも良いかもしれない。ヒウロは自身の力を知りたかった。
 聖なる雷撃呪文、ギガデイン。この呪文で、ヒウロはアレンとの戦いを乗り切った。そして、アレクの剣術。アレクの血が、勇者の血が、ヒウロの中で躍動していた。天性の戦闘センスが、ヒウロに閃きを与えた。
 ギガデインと剣術の融合。
「試す価値はある」
 ヒウロが稲妻の剣を構え直した。また、口元が無意識に緩んでいた。
「貴様、この我を笑うのか……!」
 サベルの目が血走った。怒り。
「なめるなぁッ」
 サベルが駆けてきた。ヒウロが剣を構える。一度だけ、ぶつかった。その一度のぶつかり合いで、ヒウロはサベルをいなしていた。態勢を崩したサベルが目を見開いている。信じられない。そんな表情だった。一方のヒウロは、眉一つ動かさない。
 サベルが咆哮をあげた。自尊心を砕かれたのだ。剣を振り上げる。その瞬間、ヒウロが懐に潜り込んだ。
「隼斬り」
 鮮やかだった。剣が、鮮やかに流れた。サベルの胸が、×の字に斬り裂かれる。そして、ヒウロが剣を天に突き上げた。雷雲。聖なる稲妻。
「ギガデインッ」
 雷光。城の天井を突き破り、雷撃が降り注いだ。
 ギガデインと剣術の融合。ヒウロの閃き。それは、ギガデインを稲妻の剣に纏わせるという事だった。つまり、オリアーの類似魔法剣の応用である。だが、それはオリアーの特殊な力と、エクスカリバーの対魔法剣という特性が合わさって初めて出来る事だった。それがヒウロに出来るのか。
「できる」
 ヒウロは確信していた。
 稲妻の剣にギガデインを直接は宿さない。いや、宿す事ができない、と言った方が正しい。ヒウロにはその力が無いのだ。ならば、どうするのか。稲妻の剣に闘気を纏わせる。闘気の膜を作るのだ。そこにギガデインを撃ち込む。そして、ギガデインの魔力を闘気で包み込む。つまり、オリアーの力を闘気で代用するのである。
 ヒウロが剣を天に突き上げた。闘気を纏わせる。刀身が、いや、剣全体が白銀の膜で覆われた。そして、聖なる稲妻。剣を真っ直ぐに撃ち貫く。ギガデインの魔力が、螺旋状となって稲妻の剣を覆っていく。聖なる稲妻・闘気・剣。この三つの融合。
「……ギガソードッ」
 ギガデインの魔力が暴れ回る。気を抜けば、すぐにでも飛散してしまう。だが、それを闘気でコントロールする。これは自分の呪文だから出来た。メイジの呪文であれば、いとも簡単に飛散していただろう。ヒウロには、オリアーのような力は無いのだ。あくまでそれを闘気で代用しているに過ぎない。
 サベルが後退りしていた。すでに戦意を失っている。化け物。サベルはそう言っていた。
「お、おのれ……」
 サベルが長剣を握り締めた。必死の形相だ。逃げればディスカルに殺される。向かえば、ヒウロに殺される。だが、サベルの心は決まっていた。魔族の誇り。
「おのれっ!」
 駆けてくる。ヒウロは何も言わなかった。目を見開き、静かに剣を振った。サベルの身体が、両断された。
「化け、もの、め」
 この言葉を最後に、サベルは煙と化した。ヒウロが稲妻の剣を振るう。ギガデインの魔力と闘気が消えた。
「……父さん、すぐに行く」
 ヒウロが呟く。四柱神。本気は出せなかった。いや、本気を出すまでもなかった。ヒウロはそう思った。

       

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