Neetel Inside 文芸新都
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 ヒウロの心は燃え盛っていた。父、アレンとの一騎討ちである。剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
 熾烈。この戦いを一言で表すならば、これだった。アレンの剣には淀みがない。純粋な殺意だけが、アレンの剣には込められていた。
 父を、殺してしまうかもしれない。ヒウロは戦いの最中、ふとそれを思った。アレンは自分を殺そうとしている。激しく、烈火の如く、殺意を叩きつけてくるのだ。だが、親子の殺し合い。こんなバカな事があって良いのか。
「ヒウロ。この期に及んでも、まだ勝負だと言えるか? これは紛れもない殺し合いだ。我は全身が熱い。こんな戦い、滅多に経験できるものではないぞ」
 アレンが口元を緩めた。勝負。自分は、父を殺すのか。それは違う。父を救う。魔族から、人間に戻すのだ。剣に殺意など、宿していない。
「父さん、俺はあなたを殺すつもりはない!」
「甘い。なんだそのセリフは。正義の使者のつもりか? この戦いは生きるか死ぬかだ。勝者が生き残り、敗者は野垂れ死ぬ。もはや、そういう次元の戦いなのだ。人間界でやるような生半可な戦いではない」
 アレンの言う通りだった。全力で戦わなければ、確実に殺される。逆に全力で戦えば、勝ったとしてもアレンを殺してしまう。いや、そもそもで全力で戦って勝てるかどうかも、現時点では判断がつかなかった。
「ヒウロ。お前も分かっているだろう。四柱神は難なく殺したではないか。何故、我を殺す事をためらう。我も魔族だぞ」
 四柱神は魔族だ。だが、アレンは父。父を、殺すのか。殺さなければ、いけないのか。
「父さん……!」
「これだけ言っても、まだ躊躇するのか。ならば、死地に立たせるしかないな」
 アレンが剣を構え直した。うなり声。アレンの全身が、闇の闘気で覆われて行く。ヒウロは、自身の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じていた。アレンは強くなっている。人間界で戦った時よりも、数段。アレンの両目が、赤く光った。
「本気を出せ。でなければ、二秒で肉塊だ」
 アレンが駆けた。いや、跳躍だ。地面スレスレに烈風の如く、こちらに向かってくる。
 剣。見えなかった。身体が反応していた。稲妻の剣と、白銀の剣が交わっている。重い。身体が沈む。
「父さんッ!」
 叫んだ。血が、アレクの血が熱い。目の前の巨悪に反応しているのか。血が、燃える。
「本気を出せ。四柱神を殺したのだろう。甘さを捨てろッ」
 瞬間、ヒウロが吼えた。血が、身体が燃える。
「父さん、俺はあなたを殺したくはないんだッ」
 剣を払った。アレンの剣を力任せに弾く。
「四柱神は魔族だ! けど、父さんは違う!」
「間抜けが。ならば、死んで後悔しろッ」
 アレンが右手を突き出した。炎の渦が集約する。ベギラゴン。ヒウロが後ろに飛んで避ける。
「父さんッ」
 血が熱い。戦え、と言っている。勇者アレクの血が、本気を出せ、と言っている。
「ヒウロ! 我を楽しませろ!」
 メラゾーマ。ヒウロが目を見開いた。もう親子の感情を捨てるしかないのか。父を救い、尚も勝利する。この想いを捨てるしかないのか。ふと、ヒウロの頭にダールの名が過った。あいつか。あいつのせいで。
「ダールめッ」
 稲妻の剣を思い切り、横に振った、アレンのメラゾーマが弾き飛ばされる。
「許さないぞ。俺を、父さんをここまで追い詰めて……!」
「ダールが憎いか。魔族が憎いか。来い、ヒウロ。お前の怒りと憎しみを我にぶつけて来いッ」
「父さん……!」
 ヒウロが稲妻の剣を握り締めた。アレンを倒す。ヒウロは自身の甘さを捨てた。

       

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