Neetel Inside 文芸新都
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 聖なる稲妻と地獄の稲妻。二つの稲妻が、二人の勇者アレクの子孫の剣に絡みついていた。
 ヒウロの頬に一筋の汗が流れる。様々な想いが、ヒウロの中で駆け巡った。ギガソード。稲妻・闘気・剣の三つを融合させた技。自らが編み出した最強の技。その技がアレンにも使えた。
 それは当然と言うべきなのか。アレクの血。天性の戦闘センス。これらは、自分だけに当てはまる話ではないのだ。父であるアレンにも該当する。ならば、当然と言って然るべきなのか。
「父さん……!」
 ヒウロが稲妻の剣を、ギガソードを構えた。螺旋状にまとわりついているギガデインが、咆哮をあげている。雷光がヒウロの顔を照らす。
「お前は本当に我を楽しませてくれる。この技なら、ディスカルをも討ち取れる。我はそう確信した。それ程の威力があるのだからな」
「……この技で、勝敗は決する!」
「よく分かってるではないか。光と闇。聖と邪。互いに相容れる事なき存在だ。この技で、お前と雌雄を決するッ」
 アレンも剣を構えた。闇色の稲妻が、アレンの剣を覆っている。
 ギガソードとジゴソード。ヒウロは自分の呼吸の音を聞いていた。自分の全てをぶつける。この目の前の男を倒す。一意専心。ヒウロが稲妻の剣に全てを込めた。
「父さんッ」
 駆けた。ギガソードを振り上げる。
「来い、ヒウロッ!」
 交わる。光が、闇が、衝撃波が吹き荒れる。互いの稲妻が化け物の叫びのように唸る。
「俺は、魔族を倒すッ!」
「ほざけッ」
 鍔迫り合い。二つの剣が、異常なまでに輝いていた。光と闇。稲妻と闘気が混じり合い、真の勝者を決めようとしている。
 ヒウロが目を見開いた。自身の血が熱い。アレクの血が、自分の正義が身体の中で叫びをあげている。そして、ヒウロの目に一つの感情が宿った。その瞬間、アレンの目に一瞬だけ怯えが走る。
「父さんッ」
 一つの感情。それは。
「俺は勝つッ」
 『勇気』。稲妻と闘気。そして、『勇気』がヒウロの剣に宿る。瞬間、稲妻の剣に膨大なエネルギーが宿った。ヒウロが吼えた。
「ギガブレイクッ」
 刹那、エネルギーが放出された。稲妻・闘気・剣・勇気。四つの力が解放される。光。熱。アレンを、部屋を、魔界を飲み込んだ。
「み、見事だ、ヒウロ」
 光で視界が消える直前、アレンの眼に優しさが戻っていた。ヒウロはそれをしっかりと見ていた。
「――父さんッ」
 ヒウロが叫ぶ。
 ――光が晴れた。ヒウロは肩で息をしている。その時だった。
「け、剣が」
 稲妻の剣に、ヒビが入った。そのヒビが、剣全体に広がって行く。そして、稲妻の剣は粉々に砕け散った。ヒウロの技に、稲妻の剣が耐えられなかったのだ。
「……稲妻の剣。今まで、ありがとう」
 ヒウロが目を瞑った。そして、父に目を向ける。アレンは壁際まで吹き飛んでおり、大の字で仰向けになっていた。その父の傍に、ヒウロは歩み寄った。アレンは、かろうじて呼吸をしていた。戦っていた時に感じていた邪気や殺気はすでに無い。アレンは、人間に戻っていた。
「ヒウ、ロか?」
「……あぁ」
「もう、目が見えん。……よくやったな、ヒウロ」
 アレンの声はかすれて、とてもか細く聞こえた。父は死ぬ。ヒウロはそう思った。だが、悲しみという感情は無かった。いや、感情と呼べるものは何も無い。まだ、何が起きたのか、自分が理解しきっていないのか。
「私は、お前に話しておかなくてはならない事がある。何故、私とお前の母であるローザが、お前の元から去ったのか、という話だ」
 ヒウロは黙ったままだった。

       

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