Neetel Inside 文芸新都
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 ヒウロは、目を瞑っていた。その傍で、アレンの屍――灰が風に吹かれている。もう、涙は止まっていた。
 父と自分。こうなる事は、運命だったのか。ヒウロは単純にそう思った。父はなるべくして、こうなった、と言っていた。ならば、こうなる事は運命として決まっていたのか。
 父の死。当然、悲しみ、辛さはある。だが、それ以上に、ヒウロはその意味を考えた。父と出会った事で、自分は成長できた。強くもなれた。そして、勇者としての力にも目覚めた。父と剣を交え、その戦いに命をも賭けた。それは、何のためだったのか。父の最期の言葉を思い出す。魔族を倒せ。
「……立ち止まっている暇は無い」
 結論だった。ここで悲しみに暮れ、嘆く事はたやすい。だが、そうした事で得られる物など何一つない。メイジ、オリアー、セシル、エミリア。仲間達もそれぞれの想いを胸に抱き、戦っているのだ。自分だけが、ここで甘えるわけにはいかない。
 ヒウロの目に、勇気が宿っていた。父の志。それを受け継ぐ。魔族を倒す。
 その時だった。父の屍が、灰が、輝きだした。それはゆっくりと宙に浮き、球体を形作って行く。
「選ばれし者よ」
 父の声だった。それが頭の中で響く。
「汝は父を超え、その志を強く受け継いだ。汝の勇気、父の志、そして母の愛。これらは三つで一つと心得よ。そして、汝こそ、神器を扱うにふさしい者と判断する」
 球体が光を放った。白く、輝いている。熱い。球体の中心が、燃え盛っていた。
「汝に神器、ブレイブハートを授ける」
 球体が、ヒウロの胸の中に吸い込まれた。暖かい。父の温もり、母の優しさ。それをヒウロは確かに感じ取った。
「選ばれし者よ。この先、さらなる困難が汝を待ち受けていよう。だが、決して諦めるな。汝の力は味方の勇気となり、闘志となる。それを忘れてはならない。そして、我も汝と共に歩む。かつての勇者アレクと同じように。行け、選ばれし者よ。世界を救うのだ」
 父さん。ヒウロは心の中でそう言った。父と母。二人が見守ってくれる。ヒウロの中で、勇気が大きく膨らんだ。
「ありがとう。父さん、母さん」
 そしてヒウロは、床に突き刺さっていたアレンの剣の束に手を掛けた。アレクが最後の決戦に使ったとされている剣。オリハルコンで作られている剣。
「……そして、父さんの剣」
 引き抜く。
「この剣で、俺は魔族を倒す」
 一度だけ、振った。稲妻の剣よりも、風を切る音が重い。いける。ヒウロはそう思った。父の形見の剣。
 ふと、背後から足音が聞こえてきた。振り返る。
「メイジさん」
 ヒウロが言った。ヒウロの言葉通り、部屋の入り口には四柱神を倒したメイジの姿があった。
「……終わったのか」
 メイジが部屋の様子を見て言った。メイジの身体は負傷していたが、目は萎えていなかった。
「はい」
「父は、死んだのだな」
「……はい」
 メイジが、ヒウロの目をジッと見つめる。その目から、メイジは勇気を感じ取った。
「ヒウロ、お前は強くなった。……もう、俺がみんなをまとめなくても良さそうだ」
 メイジが口元を緩めた。
「そんな。俺はそういう柄じゃありませんよ」
「バカな事を。魔界に来てからは、お前もリーダーシップを取ってたじゃないか」
「それは」
「まぁ、見ていて危なっかしいとは思ったがな」
 メイジが笑う。それを見たヒウロの顔が赤くなった。
「……ヒウロ、父の死はもう良いんだな?」
「はい。父さんは、俺に力を与えてくれました。そして、神器という贈り物も」
 ヒウロの胸が光る。白く、淡い光だった。神器、ブレイブハートである。
「……そうか。本当に、お前は強くなった」
 メイジが二コリと笑った。それに対し、ヒウロは頷いた。
「所で、まだ他のみんなは来ていないんだな」
「はい」
「四柱神は正直、手強い相手だった。俺は新たなる力を得て、倒す事はできたが……」
「……大丈夫ですよ。俺はそう信じています」
 ヒウロの言葉に、メイジは強く頷いた。

       

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