Neetel Inside 文芸新都
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 ビエルが首を鳴らした。口元を緩めている。だが、目は笑っていない。
「俺様に喧嘩を吹っ掛けるたぁ、良い度胸してるな、お前。名前は言えるか?」
「メイジ。魔人レオンの後継者だ。ファルス王国を滅ぼした報い、受けてもらうぞ」
「あぁ?」
 ビエルが眉をひそめた。目を少しだけ泳がせる。まるで、そんな事など一切知らない、という素振りだ。
「あぁ、あの事か。ヒヒ」
「……忘れていたのか」
「忘れていた? 何言ってんだ? 俺にとっちゃ、人間の国なんぞゴミの集まりでしかねぇんだよ。俺様はそのゴミを焼却しただけだ。忘れてたんじゃねぇ。覚えておく価値すらねぇんだよ、バァカ」
 メイジの表情が一気に険しくなった。
「……ビエル、必ずここでお前の息の根を止めてやる」
「出来るもんなら、やってみろ? ヒヒヒ。女二匹の悲鳴も聞きてぇなぁ。裸にして散々にいたぶってやりてぇ。ヒャハハ」
「ゲス野郎がッ」
 メイジが両手を突き出した。
「イオナ」
「遅いよ、カスが」
 瞬間、大爆発。ビエルのイオナズンだった。メイジが吹き飛ぶ。セシルとエミリアに戦慄が走った。
「レオンの後継者とか言ってたな、お前。ザコじゃねぇか」
「ちぃ……っ」
 強い。これ以外にビエルを形容する言葉が見つからない。メイジはそう思った。魔力・詠唱スピード共に遥かに自分を凌いでいるのだ。独力では確実に負けるだろう。だが、自分には仲間がいる。セシルが、エミリアが。
「セシル、エミリア、お前達の力を貸してくれ……!」
 メイジが杖にすがりながら立ち上がった。イオナズンの一撃。ダメージが大きすぎる。
「メ、メイジ……。私は」
 セシルが震えていた。ダールと肩を並べるビエルを目の前にしているのだ。魔王の側近。嫌でもルミナスでのダール戦が頭を過る。
「頼む、俺だけでは勝てん。お前の魔法剣が必要なんだ……!」
 メイジが片目を瞑る。汗が頬を伝った。ビエルと近距離戦を張ってくれ。メイジはセシルにそう言っていた。
「私は……!」
 セシルが目を地面にやった。そして、考える。何のために自分は魔界にやってきたのか。自分はルミナスで破壊と殺戮の限りを尽くした。そしてそれに対して自分は、生きて償うと決めた。そう、ここで震えるために自分は魔界にやってきた訳ではないはずだ。
「私は!」
 セシルの目から怯えが消えた。闘志が宿る。
「音速の剣士!」
 次いで、魔法剣を作り出した。セシルは恐怖を乗り越えた。
「頼むぞ」
 メイジの目が光る。
「エミリア、俺とセシルの回復と支援を頼む」
 メイジの言葉に対して、エミリアが大きく頷いた。そして、すぐにメイジの傍に駆け寄る。回復呪文を使うのだ。
 エミリアがある意味、大きな鍵を握っている。メイジはそう思った。相手はビエルだ。いかにセシルが素早くても、確実にいくつかは攻撃を貰うはずだ。そのいくつかの中に、致命打が入っていた場合、このパーティは壊滅の危機に陥ってしまう。前衛であるセシルが崩れた瞬間、ビエルに良いように弄(なぶ)られてしまうからだ。つまり、この戦いでの主軸はセシルになる。そして、そのセシルを支えるのがエミリアだった。
「ここからが、本番だ」
 エミリアの回復を終えたメイジが、神器を構えた。

       

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