Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 こんなものなのか。メイジは単純にそう思った。
 死ぬ。こんな簡単に死ねるのか。光の壁によって反射されたメドローア。それに飲み込まれて、自分は死ぬ。魔族との戦い。力及ばず。この一言だった。知恵を振り絞った。英知に魔力を乗せ、やる限りの事をやった。それでも死ぬ。――死ぬ。
「ヒャハハハッ」
 ビエルの笑い声。血が、熱い。メドローアが眼前に迫っていた。血が燃える。
「こんな所で諦めるのか、私の力を受け継ぎし者よ。真に私を超えたのならば、魔力だけではなく、精神力・知力も超えてみせよ」
 声が聞こえた。
「メイジ!」
「メイジさん!」
 セシルとエミリア。その瞬間だった。メドローアが、身体を飲み込んだ。
 視界が白かった。痛みは無い。その代わりに心が、どうしようもない程に熱かった。このまま死ぬのか。死んでいいのか。いや、違う。死んでたまるか。死ぬために、ここまで戦ってきた訳ではない。何のために戦ってきた。平和を勝ち取るため。魔族を倒すため。ファルス王国の、いや、死んでいった人間達への手向けのため。
「一度だけ、お前に私の力を貸そう。この一度だけだ。私の力を受け継ぎし者よ。今度こそ、私を超えるのだ」
 視界が戻った。
「あ、あぁ?」
 ビエルがたじろいでいる。
 メイジの全身は白銀に輝いていた。そして、無傷。極大消滅呪文に飲み込まれた。それでも、無傷だった。
「て、てめぇ……!」
 ビエルが呻いた。メイジは究極の防御特技を発動させていたのだ。その特技とは。
「パラディンガード……! なんでだ、なんで魔法使いのてめぇがッ」
 敵の攻撃を全てその身に受け、無効化させる。それがパラディンガードだった。だがこれは、聖騎士と言われるパラディン専用の特技であり、魔法使いであるメイジには使えるはずもなかった。
 魔人レオンが、力を貸してくれた。メイジはそう思った。無論、理屈などない。だが、自分は生きている。まだ戦える。
「ビエルッ」
 メイジの目に闘志が宿った。戦う。自分の全てをぶつける。
「訳がわからねぇ……! 訳がわからねぇッ! なんで生きてやがるッ」
 ビエルが叫んだ。
「俺はお前に全てをぶつける。もう俺は何も要らない。お前に勝つ。ただそれだけだ!」
 杖に、メラゾーマとマヒャドの魔力を溜めこんだ。
「またメドローアかよ? あぁ!? 無駄だよ、ゴミがッ」
 メドローアは布石だ。メイジは目でそう言った。
「セシル、さっきのグランドクロス、もう一度撃てるか」
 メイジの言葉。セシルが魔法剣を杖に立ち上がった。そして、強く頷く。
「よし」
 メイジが、両腕を天に掲げた。その構えに、ビエルが怪訝な表情を浮かべる。
 目を、瞑った。かつて、メイジはバギマを五本の指に宿した事がある。スレルミア河川での戦いの時の話だ。それを応用する。
 各上等級呪文。火球系のメラゾーマ。火炎系のベギラゴン。冷気系のマヒャド。真空系のバギクロス。そして、爆発系のイオナズン。それぞれの魔力を、各指に宿す。
「もう良い。もう飽きた。お前とやり合ってると頭がおかしくなりそうだぜ……! もうお前はいいよ。飽きたよッ」
 ビエルが両腕を突き出した。闘気。ファルス王国を消し飛ばした、あの特技。
「死体も何も要らねぇッ! 消え去れ、ゴミ虫がぁッ」
 ビッグバン。天地が崩壊する。
「俺の、俺の全てをぶつけるッ」
 メイジが目を見開いた。身体の奥底が燃える。各指が光を放った。その光は球体となり、巨大なエネルギーと化していく。五大上等級攻撃呪文。その全ての魔力が混じり合い、究極呪文が今目覚める。
「マダンテッ」
 メイジが全ての魔力を解放した。

       

表紙
Tweet

Neetsha