Neetel Inside 文芸新都
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 火球・火炎・冷気・真空・爆発。五つの攻撃呪文。その全てが混じり合って目覚めた究極呪文、マダンテ。術者の全魔力と引き換えに放たれるそれは、何もかも全てを飲み込んだ。そう、文字通り全てだ。
「お、俺様のビッグバンがっ」
 ビエルが呻いていた。マダンテがビッグバンを飲み込み、天と地を揺らす。
「な、何がマダンテだ……! 所詮、それも呪文の一つ。俺様のマホカンタで!」
 メイジはただ黙っていた。マダンテは、全てを飲み込むのだ。それはマホカンタですら例外ではない。
 気を失いそうになるのを、メイジは必死に耐えていた。もう自分には魔力がない。無論、体力もだ。立っている事自体が奇跡だった。だが、まだ杖に残した魔力がある。メラゾーマとマヒャドの魔力。それを放つまで、気を失うわけにはいかない。
 マダンテがビエルを飲み込んだ。だが、倒せない。ビエルは受け切る。メイジはそう思った。それ程の強敵なのだ。マダンテはあくまで、倒すための切っ掛けに過ぎない。
「セシル、魔法剣を!」
 メイジが力の限りに叫んだ。
「グランドクロスね……?」
「違う。俺の、俺の最後の魔力だ。持って行け」
 杖を突き出した。メラゾーマとマヒャドの魔力。メドローア。それをセシルの魔法剣に放つ。
「俺はもう、戦え、ない」
 メイジはそれだけ言って、倒れた。絶対にビエルを倒せ。言葉にはならなかった。
 セシルが目を見開く。メイジが作ってくれた最後のチャンス。そしてメドローアの魔力。風・光・極大消滅。三つの力が重なり合い、セシルの魔法剣は揺らめいていた。この一撃に、全てを賭ける。
「エミリア、私にピオリムを」
「は、はい」
 マダンテの光が収束していく。エミリアのピオリム。重ね掛けを施した。
 光が消えた。ビエルが両膝をついている。
「く、くそったれがぁ……! 死にかけたぜ……! このビエル様が、人間如きに!」
「その人間に、あなたは倒される」
 セシルの声。魔法剣を振り上げていた。ビエルが、目を見開く。
「いつの、間に」
「これで終わりよ!」
 風・光・極大消滅。最強の魔法剣。
「アルテマソードッ」
 真っ直ぐに、ビエルの正中線上を斬った。
「ダ、ダール。ディスカル、さ、ま」
 両断。
「グバッ」
 爆発。それだけだった。呆気ない程に、それだけだった。
 風がなびく。セシルが一度だけ、息を吐いた。
「強敵、だった」
 ビエルの肉片は光の粒子となり、宙を舞っていた。セシルが魔法剣を消した。勝った。それだけを思った。
 エミリアが、気絶したメイジの傍に寄り添う。
「勝ちました、メイジさん」
 エミリアは、泣いていた。メイジが居なければ、絶対に勝てなかった。何度もダメだと思った。その度に、メイジが何とかしてくれた。ありがとうございます。エミリアが心の中で呟く。
 エミリアの涙が、メイジの頬に落ちていた。

       

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