Neetel Inside 文芸新都
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ドラゴンクエストオリジナル
魔界(最終決戦)

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 ダールを倒した。実感は、湧かなかった。強敵だった。ヒウロはそう思った。
 ヒウロが眼を地面に向けて下ろす。
 神器の力。その正体は、一体なんなのか。ダール戦を制した今でも、それは掴み切れてはいない。ただ、とてつもない力である事は間違い無かった。あのダールの閃光烈火拳を、かわし切ったのである。そして、雷光一閃突きにカウンターを合わせる事も出来た。
 ダールの閃光烈火拳が放たれた瞬間、自分の中で勇気が膨れ上がった。そして、かわし切ってみせる。受け切ってみせる。そう決意した。その瞬間、視界が白く染まった。いや、正確に言えば、勇気を向けた対象、それ以外が視界から突如、消え去った。その瞬間から、ダールの動きがとてつもなく遅くなった。人間は危機的状況に陥った時、周りの動きがスローモーションに見えると言う。その現象かと思ったが、違った。自分はいつも通りに動けたのだ。時間軸が自分だけズレている。この表現が一番、しっくり来る。
 時間をどうにかする力なのか。ヒウロはそう思った。しかし、何か違う。もっと超越した何か。上手く言えないが、時間など歯牙にもかけない、とてつもない力。全貌は見えないが、あくまで今はまだ『覚醒の初期段階』に過ぎない。ヒウロはそんな気がしていた。
 ルミナス王国で読んだ、神器に関する書物。あの書物には、神器は魔族達との戦いを制した後、自らを封印する事にした、と書かれていた。強力すぎるその力は、世界を破滅に導きかねない、と神器は判断したのだ。確かに、その力の強大さについては頷ける。メイジのスペルエンペラーは町や城をいとも簡単に消し飛ばす力はあるだろうし、オリアーの神王剣にも同じような事が言えるからだ。
 ならば、ブレイブハートはどうなのか。現時点で言える事は、ブレイブハートに隠された力は、攻撃力や魔力のような『破壊力』を主流としたものでは無いという事だ。だが、文字通り『世界を破滅に導きかねない』そんな力を秘めているという気がする。
 そして、残されたもう一つの神器。ルミナス王国の書物によると、神器は全部で四つ存在しているという事だった。現在の使い手は、ヒウロとメイジ、オリアーの三人だけだ。あと一つの神器の使い手は、結局は分からず終いだった。
「ヒウロ、あなたとダールの戦いを見ていて、一つ気になった事があります」
 地に座り込みながら、オリアーが言った。口端に血の流れた後が見える。あのダールの攻撃を何発もその身に受けたのだ。かなりのダメージを負ったはずだ。ヒウロはオリアーの傍に歩み寄り、ベホイミをかけ始めた。
「閃光烈火拳の時と、二回目の雷光一閃突きの時です」
 両方とも、神器が力を発動した時だった。
「僕は自分が思ってる事をそのまま言います」
 ベホイミをかけ終えた。全快には程遠いが、少しは楽になったはずだ。
「どうやって、避けたのですか? そして、どうやって攻撃したのですか?」
 意味が分からなかった。
「どう、って言われても。普通に避けて、普通に反撃しただけだよ」
「僕もそれは分かります。ですが、分かるのはあくまで結果だけなんです。その経緯が全く分からない。その部分だけ、記憶が飛んでると言うか……」
 オリアーはそれ以上、何も言わなかった。言葉が見つからないのだろう。
「……正直、俺もよくわからないんだ。ただ、俺の神器の力。これが大きく関係してると思う」
 オリアーがヒウロの目をジッと見つめる。
「おそらくですが、魔王ディスカル戦は、あなたのその力が戦いを大きく左右する事になると思います」
 オリアーのこの類の勘は鋭かった。そして、ヒウロ自身もそう思った。最後の戦い。
「……あぁ」
「メイジさん達の戦いも、終わったようですね。無事に勝利したようです」
 オリアーがメイジ達の方に顔を向けて言った。あちらも死闘だったのだろう。メイジは気を失っているのか、横たわっているのが見えた。
「ついに、魔王戦か」
「はい。僕達の戦いも、次の戦いで最後です」
 この言葉に、ヒウロは大きく頷いた。

       

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