Neetel Inside 文芸新都
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 ディスカルは王座に腰かけ、目を瞑っていた。ここで、勇者アレクの子孫たちを迎え撃つ。
 自分は魔族の王だ。ディスカルはそう思った。そして、生物の頂点に立つ者でもある。この世に神という者が存在するのなら、自分はその神すらも凌駕するだろう。自分はそれだけの力を得たのだ。
 永かった。永遠とも感じる時の中で、ひたすらに自分は復活の機を窺ってきた。そして、勇者アレクの戦いから、どれだけの時が流れたのか。アレクとの戦いに敗れた瞬間、魔族はその未来を絶たれた。神器と人間。この二つの力によって、魔族は敗れた。
 あの二の轍は踏まぬ。そして、踏まないだけの力を得た。神をも凌駕する力を得たのだ。
 元々、魔族は人間を見くびり過ぎていた。絶対的な力を持ってもいないのに、身体的能力や、持って生まれた力の強さだけで勝ち誇ったつもりになっていた。先代の魔王は頭が悪かったと言わざるを得ない。神器の存在や、どんどん強くなっていく人間に警戒心すら抱かなかったのだ。
 しかし、それだけの力を魔族は持っていた。それ故に、慢心した。だから敗れた。滅ぼされた。だが、自分は違う。
 人間の負の思念によって、再び魔族は復活した。そして、封印も解かれた。これが機だ。人間に復讐し、世界を恐怖のどん底に陥れる機だ。自分は先代の魔王のように、無策ではない。
 勇者アレクの子孫たちは、ここまでやってくる。これは予想ではなく、確信だった。四柱神やアレン、側近の二人は倒される。この者達は確かに強い。だが、勇者アレクの子孫たちには勝てない。だが、勝てないなりにも戦力を削る事ぐらいは出来るはずだ。
 ダールは惜しい。ふと、それだけを思った。奴の力には独特な物がある。魔族の勢力を拡大できたのも、ダールの力によるものが大きかった。自分は生まれながらにして王だったが、ダールは生まれながらにして自分の補佐だった。
 だが、使い捨ての駒だ。元々、自分以外の魔族など必要なかったのだ。人間のモノマネのために、他の魔族が居ただけの話だ。人間界には国家というものがあり、それを中心にまとまっているという所がある。
 勇者アレクの子孫たちを殺す。そうすれば、全てが始まる。
 目を開いた。
「よくぞ来た。勇者アレクの子孫と、その仲間達よ」
 言って、その姿をじっくりと見まわした。五人。陣形を組んでいる。誰一人として欠けていない。それ所か、さらなる力を付けているようにも見える。
「役立たずどもが」
 呟いた。そして、立ち上がる。ブロンドの長髪が、わずかに頬を撫でた。
「お前が魔王か」
 勇者か。アレクの面影が微かに見える。
「そうだ」
「四柱神も、ダールもビエルも倒した。あとはお前だけだ」
 だからどうした。その者達など、元々自分には必要ない。
「お前を倒せば、世界は救える」
 不可能だ。出来る訳がない。自分は神をも凌駕する力を得たのだ。
「……お前達は私には勝てん」
 一歩だけ、前に進み出た。それに呼応して、五人が戦闘の構えを取る。良い眼だ。ディスカルはそう思った。
「一つだけ、お前達に問おう」
 両腕を開く。
「お前達は運命を信じるか?」

       

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