Neetel Inside 文芸新都
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 何が起こっている。
 メイジは単純にそう思った。頭がおかしくなりそうだ。
 何故、自分の呪文がオリアーに。自分が放った呪文だ。それなのに、何故かオリアーに放たれていた。絶対に撃ち間違えなどは犯していない。間違えるはずもない。撃つべき標的を眼で見定め、頭の中で魔力の軌跡を描いた。そして放ったのだ。呪文は武器よりも、正確に敵を捉える。回避不可能と言っても良い。それなのに、自分のメラガイアーはオリアーを焼いていた。
 同じような事が、オリアーの身にも起きていた。ディスカルに向かって振り下ろされた剣が、何故かセシルを斬っていたのだ。オリアーは気が狂う寸前なのか、わなわなと全身を震わせている。その目には狂気すらも感じさせていた。
 パーティが混乱していた。自分の置かれている状況と、目の前の巨悪。そして、起こった出来事。全員が自分を見失いかけている。
 頭を左右に振った。そして考える。今やるべき事。
「みんな、気をしっかり持て。まずは現状を分析しろっ」
 声をあげていた。言ったが、自分も戸惑っている。メイジはそう思った。いや、戸惑っていると自覚できている。ならばその分、冷静になれるはずだ。
「エミリア、セシルの回復を頼む。オリアー、お前は下がれ!」
「ぼ、ぼくが、僕がセシルさんを」
 自分の声はオリアーに届いていない。メイジはそう思った。オリアーはセシルを好いていた。そのセシルを斬ったのだ。セシルの傷は深い。それは後衛の位置から見ても明らかだ。
 すると、ヒウロが一歩だけ前に進み出た。力強い一歩だ。ディスカルと向かい合う形になった。その背後に、震えるオリアーと倒れ込んだセシルが居る。
「ヒウロ、何をする気だ」
 メイジが言った。まずは現状を分析するべきだ。ディスカルは無策で立ち向かえる相手ではない。
「ディスカル、お前は運命を信じるか? と言ったな」
 ヒウロが剣を構えて言った。
「そうだ。勇者アレクの子孫よ。お前は信じるか?」
「信じる」
「ほう」
 ディスカルとヒウロのやり取りを聞きながら、メイジは一つの事に気付いた。
 ヒウロは自分を見失っていない。至って冷静であり、現状を理解しているにようにも見える。
「……ヒウロ、お前」
「メイジさん、ディスカルは強烈な能力を持っています。それは世界を破滅に導きかねない能力で、どんな物事をも自由にできる能力です」
 何を言っている。
「――運命を操る能力。言葉で表すならば、そういう能力です」
 背筋が凍った。運命を操るだと。
 もしこれが本当ならば、打つ手は無いに等しい。戦いを、いや、これから起こり得る全ての出来事を、ディスカルはその手中に収めていると言う事になるのだ。そして、自分達はディスカルと戦うだけ無駄であり、生きている事自体が無意味になってしまう。運命を操れるという事は、そういう事だ。
「ほう。何故、お前にそんな事がわかるのだ?」
 ヒウロの身体に勇気が宿っている。メイジにはそう見えた。
「俺の神器と同じ能力だからだ」
 ヒウロの声は、力強く透き通っていた。

       

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