Neetel Inside 文芸新都
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 小僧が。いや、さすがに勇者アレクの子孫だ。ディスカルはそう思いながら、ヒウロの目を睨みつけていた。
 運命を操る能力。自分が得た能力は、まさにそれだった。神をも凌駕する力。この世の定め、その全てを断ち切る力。
 その力を、この目の前の小僧も持っているというのか。いや、ただの小僧ではない。遥か昔に魔族を討ち滅ぼした、あの勇者アレクの子孫だ。
「お前の神器の能力だと?」
 勇者の神器が、運命を操る能力を持っているという事か。つまり、勇者自身はその力は持っていないという事だ。当たり前と言えば当たり前だが、あくまで神器の力という事である。そしてそれは、自分と同じだった。
 ディスカルも神器を持っていた。四つ目の神器を。
 目の前の勇者は元より、後ろの魔法使いと戦士も神器に選ばれた者達のはずだ。ディスカルはそう思った。すなわち、神器が使い手として認めた者達という事だ。だが、自分は違う。自分は魔族であり、魔王だ。神器が自分を選ぶ訳がない。そして、実際にそうだった。だが、神器を得た。自分の物にする事が出来た。
 選ばれないのならば、神器が自分を認めないのであれば、力ずくで手に入れる。神器が自分を選ぶのではない。自分が神器を選び、支配すれば良い。単純な話だった。そして、それは現実となった。
 その結果として、運命を操る能力を得た。元の神器の名は知らないが、今はエビルハートと名付けている。神器の基礎能力は強烈だった。そこに闇の力を加えたのだ。そしてエビルハートを手にした時、もはやこの世に敵など居ないと思った。何せ、運命を操れるのだ。だが、それはただの思い上がりだった。
 目の前の小僧が居る。この小僧は、自分の能力を正確に当てて見せた。この事から、小僧も運命を操れると見て間違いないだろう。同じ能力者でなければ、見破れない何かがあるはずだ。
 何度か、ダールや四柱神相手に能力を使ってみたが、奴らは何が起きたのかすらも理解できていなかった。能力を使った瞬間だけ、記憶が飛んでいる、という印象だったのだ。だが、この小僧、いや、勇者は何が起きたのかをしっかりと理解している。
 慢心。先代の魔王は、これが原因で敗れた。先代の魔王の二の轍は踏まん。勇者がどの程度、能力を使いこなせるかはまだ分からない。しかし、自分が想像するに、おそらくはまだ力に目覚めたばかりのはずだ。そういう意味では、現時点では自分に分がある。それをどう活かすかだ。全身全霊を賭けて、葬り去る。勇者だけではない。魔法使い、戦士、魔法剣士、王女。この場に居る人間全員に、自分は全身全霊を賭ける。
「強敵だ。対峙して、改めてそう思う」
 ヒウロが言った。
「魔族の能力は生まれながらにして、他の生物とは一線を画している。だからこそ、慢心した。私は学んだのだ。先代の魔王から、部下達からな。慢心は最大の敵にして、最後まで敵だ」
「人間にも同じ事が言える」
「フン。人間は強くなっていく。それも私が想像するよりも遥かに早いスピードでだ。その証拠に、お前は運命を操る能力を言い当てて見せた。それ所か、自身も運命を操れるとのたまった」
「他の魔族なら、信じようとはしなかった。そして隙を見せた」
「私は違う」
 そうだ、違う。自分は慢心を捨て、目の前の五人の人間を強敵として認める。先代の魔王や部下達は、最後の最後まで『人間如きに』という思いがあったはずだ。そこに敗因があった。だが、自分は違う。
「お前は魔王だ」
「そうだ。魔王であり、最強の魔族だ」
 それだけの話だ。だが、重要な事だ。自分は最強の魔族なのだ。これだけは揺るがない事実だ。慢心はしない。だが、卑屈にもならない。慢心しない事と卑屈になる事は違う。
「俺達はお前を倒すために、ここまでやって来た。例え、お前に運命を操る力があろうとも、俺達はそれを乗り越えてみせる」
 勇者が闘志をむき出しにしてきた。パーティに活力が戻っている。すでに回復を終え、気力を漲らせている。これが、勇者というものなのだ。この勇者という一つの存在だけで、パーティは、いや、人間はいくらでも蘇る。
「勝つのは――」
「俺達だ!」「私だ!」
 心が、燃える。

       

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