Neetel Inside 文芸新都
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 自分の腕の中で、命が消えていく。オリアーの頬が濡れていた。メイジが、死ぬ。
 名前を何度も呼んだ。しかし、返事は無い。メイジの眼には、死が宿っていた。いつも感じていた、優しさと厳しさが混在する眼差しはもう無かった。
 メイジが眼を閉じた。
 命の終わり。自分の腕の中で、一人の男が眠った。それは永遠の眠りで、二度と眼を覚ます事はない。
 どう言えば良いのか分からなかった。自分がどう感じているのかも分からなかった。今までずっと、自分とヒウロの前にはメイジが居た。それが消えた。自分達にとって、メイジは兄のような存在だった。自身を常に厳しく律し、他人を優しく包み込む。メイジはそんな人間だった。
 メイジが居てくれるだけで、パーティは希望が持てた。どんな窮地に立たされようとも、メイジは勝つための手段をひねり出してくれたのだ。
 みんなの精神的支柱だった。しかし、自分にとってはそれ以上の存在だったと言っていい。自分の中で、何かがうごめいている。悲しみ、怒り、絶望。そのどれでもない。
 義憤。
「ディスカル、貴様ぁッ!!」
 叫んでいた。同時に剣を構えていた。駆けていた。
「フン」
 笑うのか。メイジを殺したお前が笑うのか。斬ってやる。仇を討ってやる。
「やめろ、オリアーッ」
 ヒウロ。うるさい。仇を討つんだ。メイジの仇を討つ。
 剣を振り下ろす。片手で止められていた。手首を返し、斬り結ぶ。それも止められた。
「殺したのは魔法剣士だ。私に恨みを抱くのは筋違いというものだぞ」
 全身が燃えた。ディスカル。お前が運命を操った。セシルにメイジを殺させた。神王剣が吼えている。
 自身の正義が暴れまわっている。こんな感覚は初めてだった。感情が解き放たれた。涙が頬を伝い、剣を振るう度に四散している。メイジが殺された。
 剣を逆手に持った。刀身に闘気を乗せる。究極の必殺剣。いや、義憤の剣。メイジの仇を討つ。
 刹那、背後から羽交い締めにされた。目の前でディスカルが笑っている。斬ってやる。邪魔をするな。
「オリアー、落ち着け! 我を見失うな!」
 ヒウロの声。
「メイジさんが殺されたんですよ!」
「わかってる! ディスカルは怒りを誘ってるんだ!」
「うるさいッ」
 振り払った。義憤の剣。
「ギガスラッシュッ」
「未熟者が」
 片手。簡単にいなされた。ギガスラッシュが、こうも簡単に。もう片方の手。手刀。貫き手だ。閃く。
 血が、眼前を赤く染めた。
「オリアー、冷静になって」
 セシル。
「なん、で。なんで、セシルさんが」
 ディスカルの手刀が、セシルの胸を貫いていた。
「ヒウロの言う事を聞いて。もう、あなたしか居ないの」
「ちっ。殺す順番が逆になったか。まぁ良い」
 ディスカルの手刀が輝いた。魔力。
「オリアー、ずっとあなたの事が、好(す)」
 爆発。
 何かが、壊れた。

       

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