Neetel Inside 文芸新都
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 順調だった。殺す順番は狂ったが、戦闘は自分が思う通りに進んでいる。ディスカルはそう思った。
 特に、魔法使いを一番最初に殺せた事が大きい。このパーティの戦闘を分析してみると、魔法使いが実によく頭を使っていたのだ。こういう存在を残しておくと、後々でとてつもない脅威となってくる。
 人間は力や魔力が弱い代わりに、頭脳があった。この頭脳で、魔族には思いつかないような戦術や、技を編み出してくる。事実、魔法使いは四柱神戦、ビエル戦で次々と新しい呪文を身に付けて来たのだ。魔法使い自身は、すでに成長の限界に達していたであろうが、他の仲間が絡んでくると話が違ってくる。だからこそ、早めに殺したかった。
 そして、次に戦士を標的に定めた。このパーティの中では、戦士が最も情に厚いだろうと思えたからだ。魔法使いを殺せば、戦士は何らかの反応を見せる。絶望するのか、逆上するのか。人は大切だと思う者を失った時、魔族では考えられないような反応を見せる。そこを利用してやろうと考えたのだ。
 結果的に戦士は汚らしい感情を剥き出しにしてきた。勇者が止めに入ったが、無駄だった。いや、無駄だと知っていたと言う方が正しい。あとは簡単だった。逆上した剣をいなし、手刀で殺す。だが、魔法剣士が邪魔をしてきた。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。わざわざ、自分を犠牲にして戦士を救ったのだ。意味が分からない。何の意味があるのか。自分が最初に思った事はそれだった。
 人間には愛という感情があるらしい。未だによくわからない感情だが、魔法剣士は愛によって突き動かされたのだろう。だが、戦士を救っていかほどの意味があるのか。自分が死んで、戦士が生き残る事に何の意味があるのか。
 目の前の戦士の眼は虚ろだった。精気が無い。いや、魂が無い。このまま放っておいても、何も問題は無いだろう。だが、放っておかない。殺す。
 慢心はしない。油断もしない。完全に命を絶つべきだ。殺さなければ、人間は何度でも立ち上がってくる。
 戦闘中、勇者がしきりに運命を変えて来ていた。だが、勇者の能力は未熟だった。いや、能力だけでは無い。その使い方も未熟だ。そしてこれは、勇者はまだ能力に目覚めたばかりという事を証明付けていた。
 運命を変える事には様々な制約が付く。それは変えられる時間の制約であったり、過去を変える事は出来ない事であったり、連続使用は不可能な事であったりする。勇者はこれらの制約を、この戦闘中に理解していかなければならない。今は全てが手探りだ。だから、意味の無い場面で運命を変えたりして、肝心な時に能力が使えなかったりする。自分はこれらの制約をほぼ完璧に把握していると言って良い。つまり、今は自分が圧倒的優位なのだ。だからこそ、今の内に仲間という衣を一枚ずつ剥がしていく。残る衣はあと二枚だ。戦士と王女の二枚。
「シリウスの後継者よ。愛する者を失った悲しみは耐え難いだろう。すぐに後を追わせてやる」
 今の戦士にはこういうセリフが心に突き刺さるだろう。戦士の心情は全く理解できないが、精神的に追い込む事は出来る。
 戦士の眼は虚ろなままだ。口を微かに動かして、何かを喋っている。何を言っているのか聞いてみたいと思ったが、どうせくだらない事だ。早く殺すに限る。
 その時だった。勇者が飛び込んできた。片手で剣をいなす。続いて雷撃。ライデインだ。それも片手で弾き返した。
「やめろ、もうやめろ、ディスカル! お前の相手は俺のはずだ! 俺を殺せば、それで終わるんじゃないのか!」
 そうだ。お前の言う通りだ。正直な話、お前以外の人間など塵芥(ちりあくた)のようなものだ。だが、私は学んだのだ。人間は殺さなければ、何度でも立ち上がると。お前の仲間を殺して、最後にお前を殺す。精神的にも、肉体的にも殺す。だからこそ、仲間を先に殺すのだ。仲間という名の鎧を、一枚ずつ剥がすのだ。
「これ以上、仲間を殺すな!」
「無理だな」
 言って、戦士の首に手を伸ばす。瞬間、勇者の剣が振りかかって来た。片手で弾く。
「やめろ、やめてくれ!」
「無理だと言っている」
 刹那、雷撃。ギガデインだ。グッと右手に力を込め、思い切り腕を横に振った。雷撃が弾け飛ぶ。
「頼む……。やめて、くれ」
 汚らしい。汚物を見るような目で勇者を見た後、戦士の首に手をかけた。まだ戦士の眼は虚ろだ。そして、口を微かに動かしている。すぐに魔法剣士の後を追わせてやるぞ。
「やめろぉッ」
 戦士の首の骨を折った。叫び声。
 勇者が泣き叫んでいた。そうだ。もっと泣き叫べ。そして追い詰められろ。
「次は王女だ」
 王女は自分の眼に魅入られ、昏睡状態に陥っている。身体を真っ二つに引き裂いて殺すか。これが終われば、あとは勇者ただ独りだ。

       

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