Neetel Inside 文芸新都
表紙

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 ギガソードを握り締めていた。
 目を閉じると、死んだ仲間達の顔が次々と頭に浮かんでくる。
 ディスカルに仲間を殺された。だが、自分の心の中で仲間は生きている。ヒウロはそう思った。記憶として、仲間は生き続けていくのだ。そして、命の終わりとはこういう事だ。
 記憶の中のメイジが口元を緩めた。
「勝てる。勇気を出せ。俺に言える事はそれだけだ」
 メイジが言った。
「お前に力を貸そう。俺の英知――魔力を、ディスカルにぶつけてくれ」
 ブレイブハートが熱くなっていく。死んだメイジが、力を貸してくれたのか。
「僕の正義を、ヒウロに」
 オリアーの声。また、ブレイブハートが熱くなった。勇気が燃え上がっていく。
「ヒウロ、私の力も使って」
 セシル。涙が頬を伝った。魂が、死んだ仲間の魂が、ブレイブハートに宿っていく。これが、人の想いであり、勇気であり、紡ぐ力だ。魔族には無い。あるはずがない。人間の力を、見せてやる。
 ディスカルが身体を震わせていた。怯えているのか。恐怖しているのか。
「来るな」
 ディスカルの声。僅かだが、声も震えている。
 ギガソードを構えながら、ゆっくりと前に進んだ。ディスカルの眼をジッと見つめ続ける。勇気をぶつけ続ける。
「来るなッ」
 裏返った声。お前を討つ。魔王ディスカル。お前を討つ。
「うおおッ」
 飛び掛かって来た。さすがに速い。だが、勇気で乗り越える。身体を開いてかわし、息を一度だけ吸い込んだ。
 同時にカッと眼を見開いた。
「ギガブレイクッ」
 剣を真っ直ぐに突き出した。光。溢れる。
 ディスカルの叫び声。耳を突き抜けた。アレクの剣が、父の剣が、ディスカルの身体を貫いていた。
「や、め……ろぉっ……」
 ディスカルの口端から、紫色の血が流れ出ている。
「お前は確かに強かった。だけど、俺達はその上を行く!」
 想いの力、魂を受けろ。
 勇気を剣に込めた。魔力の渦が、全身を貫く。皆の魂が天へと駆け上がる。伝説の雷撃呪文。アレクの剣に向かって迸れ。
「ミナデインッ」
 メイジの英知、オリアーの正義、セシルの愛、そして自分の勇気。
 貫く。巨大な電撃の柱が、ディスカルの身体を貫いた。
 断末魔。だが、ディスカルは耐えていた。何かが、足りない。
「ヒウロさん……!」
 エミリアの声。その刹那、ミナデインに力が宿った。希望。エミリアの、希望だった。
 同時に、叫んでいた。全ての力を解放した。英知、正義、愛、勇気、そして希望。伝説の雷撃呪文が、数多の時を超えて蘇る。
 白い光が視界を覆った。音は聞こえなかった。自分の叫ぶ声も、雷撃の音も、ディスカルの声も。涙が頬を伝う感覚だけが、妙に鋭利だった。
 風が全身を打った。目を静かに開けて行く。
 アレクの剣、父の剣の切っ先が、光を照り返していた。
 それは、魔族の最期を意味していた。

       

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