Neetel Inside 文芸新都
表紙

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「よし、こんなもんか」
 必要な装備、道具を揃えた。相変わらず、天気は良い。風も心地よかった。
「ん? ヒウロ、どこか行くのか?」
 畑を耕し終わったのか、切りかぶの上に腰を付いているカルが話しかけてきた。
「あぁ、ちょっと隣町までね」
「そうかそうか。気を付けて行けよ」
 カルが笑顔で手を振った。メイジの事を言うか迷ったが、言わない事にした。要らない心配事を増やす必要はない。それに必要なら、村長から説明があるはずだ。
 何事も無ければ良いが。ヒウロはそう思うも、どこか胸騒ぎを覚えていた。
 隣町へ行くには獣の森を抜ける必要があった。文字通り、その森は獣の住処となっており、女子供はまず立ち入らない。日差しの入りも弱く、魔物の住処としても成立するからだ。そして近頃、魔物の数が増えているという話だった。
「メイジさんに何かあったとするなら、獣の森だ」
 縁起でもない。ヒウロは心の中でそう呟いた。
 道中、スライムやはさみクワガタなどの魔物と遭遇するも、難なく切り抜けた。この辺りの魔物は大した事がない。呪文や剣の稽古がてら、よく相手をしていた。
 そして、獣の森に到着した。
 ギャァギャァと不気味な鳴き声が辺りでこだましている。霧なのか煙なのか分からないが、白いモヤのせいで視界も良くない。何より、魔物の気配をピリピリと感じた。
「しばらく来ない内に、ずいぶんと変わったな、この森も」
 これでは獣の森というよりも、魔物の森である。魔王の噂は本当なのかもしれない。
 不意に右の茂みが揺れた。剣の柄に手をかける。
「あばれうしどり!」
 茶色い筋肉質の大きな体躯。気性の荒さと、その体躯に似合わない素早い動きが特徴の魔物だ。
 不意の突進を身体をひねってかわした。避けざまに剣を抜き、一閃。
「浅いっ」
 敵の突進。速い。横に飛んだ。受け身を取る。しかし、敵はもう突っ込んで来ていた。
「何だとっ」
 地面を転がり、突進をかわした。あばれうしどりが木に激突する。木が上下左右に揺れ、木の葉を撒き散らす。
「あんなの食らったら、ひとたまりも無いぞ……」
 思わず息を呑んだ。あばれうしどりが頭を左右に振り、こちらを見定める。剣を構えた。迎え撃つ。久々に骨のある敵が相手だが、集中すれば何の事は無い。
「来いっ」
 瞬間、突っ込んできた。目を合わせた。怒り狂っているのが分かった。
 視線は外さない。激突の刹那、身体をひねる。剣を振り上げ、渾身の力を込めて振り下ろした。悲鳴。首を真っ二つだった。
「メイジさん、無事だよな」
 あばれうしどりの死体が消えていくのを見ながら、ヒウロは呟いた。
「先を急がないと」

       

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