Neetel Inside 文芸新都
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 道中、何度か魔物と遭遇するも、何とか切り抜けていた。しかし、以前に来た獣の森と比べ、格段に魔物が強くなっている。血の気も多い。村長にこの事は報告した方が良さそうだ。
 森の中を歩き始めて、そこそこ時間が経つ。獣の森はそれほど広い森ではない。出口までそう遠くないはずだ。ヒウロがそう思った時、血の臭いが鼻をくすぐった。
「人間の血か? これは」
 辺りを見回す。脇の木の幹に血がべっとりと付いているのを見つけた。すぐに駆け寄り、血のりに触れた。まだ新しい。乾いていない。
「メイジさん……?」
 まさかとは思う。胸騒ぎが大きくなった。
「……ラマッ」
「ん?」
 誰かの声。耳を澄ます。
「ェラミッ」
 ェラミ、メラミ? 呪文か? そしてこの声。
「メイジさんだ」
 走った。声のする方へ。剣の柄を握る。けもの道。男が懸命に戦っている。目をこらした。見覚えのある紫のローブ、まどうしの杖。
「メイジさんっ」
 叫んだ。敵を見る。巨体、そして熊。赤い目。丸太のような太い腕から繰り出される打撃は、人の頭など簡単にもぎ取ってしまう。
「ごうけつぐま……なんであんな強い魔物が、こんな所に」
 とにかく走った。剣はもう抜いている。

「はぁはぁっ。魔力がピンチだ。かと言って、こいつから逃げるのは至難の業……」
 ごうけつぐまが息を荒くし、口の端から涎を垂らした。そして唸る。火炎呪文で体毛こそ焦げてはいるが、ダメージは深く無さそうだ。一方のメイジは体力・魔力共に残り少ない。長い戦闘と精神的な疲労が重なり、呼吸もかなり荒くなっている。
「くそ、オリアーかヒウロのどっちかが居れば……」
 ごうけつぐまが飛びかかる。しかしメイジは動かない。いや、動けないのだ。諦めた。メイジが目をつむる。
 金属音。
「メイジさん、無事ですかっ」
 ヒウロ。剣で爪を受け止めている。
「お、お前。どうして」
 いや、今はそんな事どうでも良い。
 メイジは頭の回転が速い男だった。そして冷静沈着。ヒウロが自分を助けに来た。自分がやれる事を考える。
「ピオリム!」
 メイジとヒウロの素早さが上がった。ごうけつぐまの攻撃をヒウロが受け流す。
「バイキルト!」
 ヒウロの攻撃力が二倍になった。瞬間、ごうけつぐまが腕を振り上げた。標的はメイジ。ヒウロが再び、剣で受け止める。激しい火花と共に、ギリギリと金属が擦れ合う音が鳴り響く。
「メイジさん、魔力はあとどのくらいですか」
「悪いな、もう限界だ」
 ヒウロがごうけつぐまを押し戻す。バイキルトの効果で力がごうけつぐまを上回っている。
「これを」
 薬草と魔法の聖水をメイジに投げ渡す。間髪入れずに使った。
「助かった。あとはコイツを倒すだけだ」
「来ますっ」
 敵が両腕を振り上げた。ヒウロが避ける。地面が炸裂せんばかりの轟音。隙を逃さず、剣で薙いだ。鮮血が宙を舞い、ごうけつぐまが怯む。
「メラミッ」
 傷口へ向けて放った。怯みが咆哮へと変わった瞬間、ヒウロが剣を傷口にねじ込んだ。切っ先は敵の身体を貫いており、ごうけつぐまは力無く剣にもたれかかった。
「……やったか」
 ヒウロが呟く。静かに剣を抜くと、死体はそのまま地面に倒れ込んだ。

       

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