Neetel Inside 文芸新都
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「メイジさん、探しましたよ。それに間に合って良かった」
 消えゆく死体を脇目に、剣を鞘に戻す。
「あぁ、助かった。しかし、何故?」
 メイジのローブはボロボロになっていた。特に胸の部分はごうけつぐまの爪で引き裂かれていた。血も染み込んでいる。木の幹の血のりは、この部分のようだった。
「村長の依頼です。心配されてましたよ」
「そうか、父さんが。しかし危ない所だった」
「えぇ。メイジさんを見つけた時は無我夢中で走りましたし」
 ヒウロが笑った。それを見たメイジも緊張の糸が切れたのか、声を出して笑い始めた。
「まだまだ俺も修行が足りないようだ。俺のメラミ、全然効かないんだからな。あれには相当参った」
「メイジさん、立てますか?」
「あぁ」
 しかし、立てない。やはり、体力を相当消耗しているのだ。
「辛そうですね。ベホイミ」
 暖かい光がメイジを包み込む。
「悪いな。俺も回復呪文の一つぐらい使えるようになりたいんだが」
「素質の問題ですよ。その代わりにメイジさんは強力な攻撃呪文が使えるじゃないですか」
 メイジは膨大な魔力を幼い頃からすでに備えていた。しかし、開花した才能は攻撃呪文で、不思議と回復呪文は習得出来なかった。これには親である村長も首をかしげたが、その代償とも言えるのか、攻撃呪文の上達はめまぐるしかった。
「メイジさん、一旦村に帰りましょう。村長も心配しています」
「あぁ、そうだな」
 メイジはリレミトを唱えた。

 村に戻った二人は、早速村長の家に向かった。メイジの様子を見た村長の表情は穏やかでは無かったが、無事を確認して安堵したようだ。そしてヒウロは、森の現状を報告した。
「フム……。では、やはり魔王の噂は本当なのかもしれんな」
「えぇ。ですが、今はまだ予兆の段階かもしれません」
 沈黙。村長が目をつむる。何か考え事をしているようだ。
「お前たち、この国の王を知っているか?」
 村長が口を開いた。
「ルミナス王です」
「そうじゃ。そしてこの村も、そのルミナスの領地だ。お前たちに、一つ頼み事をしたい」
 村長が立ちあがる。
「ルミナス城に赴き、王に今の村の現状の報告を行ってもらいたいのだ」
 ルミナス城へ行く。つまり旅に出るという事だ。この村からルミナス城への道のりは長い。いくつかの難所もあった。しかし、村長の考えも分からなくは無かった。今のまま過ごしていても、この村の中だけでは何の対策を講じる事も出来ないのだ。
「俺は構いませんが、メイジさんは良いんですか? 一人息子でしょう」
「一人息子だからだ。この村の中だけではなく、世界を知って欲しい、そういう親心だよ」
 それ聞いたメイジが照れくさそうに鼻で笑う。
「それとオリアーも行かせよう。お前たちもその方が良いだろう」
 確かにそうだ。ごうけつぐまの件もあるが、獣の森を抜けるには二人では心細い。その後の難所に関してもそうだ。オリアーの剣術は村一番だし、幼い頃からの仲だった。
「しかし、今日はもう遅い。出立は明日の朝にして、今日は休むと良い。オリアーにはワシから話をしておこう」
 ヒウロは頷き、自分の家へと帰って行った。

「そうか、旅か」
 一人、ベッドの上で天井を見つめながら、ヒウロは呟いた。
 ヒウロに家族は居なかった。まだ赤子だったヒウロは、村の外で投げ捨てられていたという。それを見つけ、保護してくれたのがこの村の村長だ。だからヒウロにとって、村長は親代わりだった。メイジは兄のような存在だ。
「俺の父さん、母さん」
 目をつむる。何故、自分は捨てられたのか。何故、両親は自分の前から消えたのか。これらの謎を知るためにも、旅に出たい。ルミナス城に向かう道中、何か知る事が出来るかもしれない。密かな期待を抱きつつ、ヒウロは眠りについた。

 翌朝、村長の家に向かうと、メイジとオリアーが旅の準備を終え、待っていた。
「遅いですよ、ヒウロ」
 オリアーだ。装備もすでに整っている。
「ごめん、ごめん」
「ウム、三人揃ったようだな。では、メイジよ」
「あぁ。行ってくる。父さん、身体壊すなよ」
「フン、息子に心配される程、老いてはおらんわ。お前たちの旅の無事を祈る」
 こうして、三人の少年の旅は始まった。

       

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