Neetel Inside 文芸新都
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「お、驚いたわい……!」
 魔方陣は『黒く』輝いていた。メラミを吸い込んだ衝撃なのか、ゆらゆらと陣がうごめいている。
「黒……」
 メイジが呟く。自らの右手を見る。魔力の鼓動が微かに感じられた。息は乱れていない、気分の高揚も感じられない。むしろ、あの程度の威力なのか、という気さえしている。
「短期間の修行でこれほどまでの結果を出すとは、ワシの予想の範疇を越えておったわ」
 リーガルは驚愕の表情を浮かべていた。それもそのはずだ。かつて黒の輝きを出した人間はただ一人。魔人レオンだけなのだ。
「メイジよ、お主は一体、何者なんじゃ」
「……わかりません。でも、何か懐かしい感じがする」
 何故かは分からなかった。ただ、何となくメイジはそう感じただけだ。
「そうだ、リーガルさん。宿に戻っても良いですか? 仲間に呪文を使える奴が一人居るんです」
 ヒウロだ。メイジほどでは無くとも、ヒウロも魔法使いとして悪くない資質を持っている。リーガルから何か教わる事はあるはずだ。

「ヒウロ、具合はどうだ」
 メイジは宿に戻った。ヒウロはすでに着替えており、元気そうな様子だ。表情も明るい。
「やっと身体の重みが無くなりましたよ。心配をかけました」
「メイジさんの方はどうですか?」
 オリアーが声を掛けた。
「あぁ、やって良かった、と言えるぐらいには強くなった」
 言って、軽く笑う。その表情を見たオリアーは、相当腕をあげた、と感じ取った。
「ヒウロ、オリアー、お前たちもリーガルさんに会ってみないか? 会って損はないはずだ」
 二人は顔を見合わせた。そして頷く。
「そうですね。俺が気を失った事について、何か知っているかもしれないし」
 こうして、三人はリーガルを訪ねる事にした。

「なるほど、お主にベホマをかけても意識が戻らなかったのは、それが理由か」
 ヒウロはリーガルに事情を話した。ただし、勇者アレクの事は伏せた。メイジやオリアーにも話していない。第一、自分自身が信じられないのだ。他の人に話したとして、信用して貰えるかどうかも分からなかった。
「しかし、ライデインとは……」
 リーガルが白い眉を掻く。にわかには信じられないようだ。真の勇者にしか扱えないと言われている雷撃呪文なのだ。何故、ヒウロが使えるのか、という疑問点に行きつく。
「俺達も見ました。実物を見たのは初めてですが、かつて書物と読んだものと同じ現象です」
「うぅむ。しかし、信じ難い。ライデインもそうだが、身体の限界を超える呪文を撃てた、という事にも驚きじゃ」
「リーガルさん、信じてください、とは言いません。でも、俺にはあの呪文が撃てたんだ。そして、たぶんこの先も撃たなきゃいけない時が絶対に来る」
 魔族が再び姿を現した時、ライデイン無しで戦えるとは思えなかった。今、手持ちの武器で魔族に対抗できるもの、それはライデインだけ、と言っても過言ではない。しかし、今の自分では扱いきれる代物ではない事も事実だ。どうにかして、ライデインを自分のものにする必要がある。
「呪文に頼るのは悪い事ではない。じゃが、ワシが見る限り、お主は魔道よりも剣の道の方が明るく見える。剣を主体に、魔法はあくまでその補助として考えた方が良い」
「でも」
 ヒウロが身を乗り出した。
「そう急くな。方法が無いわけでもない」
「えっ」
「幸い、お主には優秀な魔法使いが仲間におるからの」

       

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