Neetel Inside 文芸新都
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「メイジの力を借りるのじゃ」
 ヒウロがメイジを見た。自力ではなく、メイジに助けてもらうという事か。かすかに悔しさがにじみ出てくる。しかし、すぐに頭を切り替えた。今はライデインを撃てるようになる事だけを考えるべきだ。
「お主ら、マホイミという呪文を知っておるか?」
 三人は小さく頷いた。
 マホイミとは、自分の魔力を他人に分け与える呪文である。ただし、分け与えられるのは少量で、あくまで減った魔力を元に戻す、という効果だ。魔力の総量に変化は起こらない。ヒウロの場合、ライデインの魔力に身体が耐えられなかった。マホイミそのものでは、解決にはならない。
「このマホイミを応用する」
 リーガルがメイジの左手を掴んだ。
「? 何ですか?」
 メイジが眉をしかめた。しかし、リーガルは返事をせずに何やら呪文を唱え始める。メイジは左手が微かに熱くなっていくのを感じていた。何かの力が身体の内部を駆けていく。すると、左手に何かの紋章が浮かび上がった。
「メイジよ、お主にマホイミの紋章を授けた」
 リーガルが説明を始めた。
 その説明によると、メイジは自分の意思で、他人と魔力の共有が出来るようになったと言う。つまり、ヒウロがメイジの魔力を使えるようになったのだ。リーガルが言うには、ライデインの魔力もメイジにとっては苦では無いらしい。底知れぬ魔力、とリーガルは言う。しかし、メイジ自身はピンと来なかった。だが、自分の魔力がヒウロの助けになる。これは悪い気はしない。
「ただし、あくまで術者の魔力が土台じゃ。メイジはあくまでその補助に過ぎん」
 すなわち、ヒウロの魔力が無くなればライデインは撃てないという事だ。場合によっては、また気を失う事になる。
「二回じゃ。ライデインを唱えてその後も戦うならば、おそらく二回が限度じゃ。それ以上撃てば、疲れ果てて動けなくなるか、もしくは気を失う事になるじゃろう」
 乱発は出来ない。ここぞという時にしか使えない。しかも、メイジの左手が術者の身体に触れておかなければいけないらしい。実戦ではメイジは後方に居る事が多い。魔法使いだからだ。一方のヒウロはオリアーと共に前に出る。これからはメイジとの距離感を注意して戦う必要性があるという事だ。
 ヒウロは内心、悔しかった。自分の呪文なのに、自分の力だけでは使いこなせないのだ。リーガルは剣の道の方が向いている、と言っていた。だがその剣も、オリアーにはかなわない。焦りと情けなさで一杯になった。どうすれば、強くなれるんだろう。ヒウロが心の中で呟く。
 ふと、ヒウロの肩に手が置かれた。メイジだ。ヒウロがメイジの目を見る。メイジは軽く頷いた。気にするな、目でそう言っているような気がした。
「所で、そこの鎧を着たお主」
 リーガルがオリアーに話しかけた。
「僕ですか?」
「うむ、先ほどから気になっていたんじゃが、お主から何らかの魔力を感じるぞ」
「え? そんな。僕は呪文は一切使えませんよ」
 オリアーが笑う。
 オリアーは幼い頃から剣を振り回していた。そのせいか、呪文とは無縁だった。ある時、試しに呪文を使ってみよう、と奮起した事もあったが、全くの無駄だった。呪文を使おうにも、それを使うイメージが全く出来なかったのだ。だが、代わりに剣術がある。幼少の時点で、剣で大人に勝った事もあった。だから、オリアーは剣の道を突き進んできた。
「うぅむ。呪文を使う魔力とは異なるようじゃが……。しかし、確かに魔力は感じるぞ」
 リーガルが首をかしげる。しかし、これ以上は何も掴めないようだ。
「お主たち、行き先はどこじゃ?」
「ルミナス城です。王に会いに」
「なんと、ルミナスか。ならば、ちょうど良い。ここから南下した所に、スレルミア河川という川がある」
 ヒウロ達もこれは知っていた。ルミナスへ行くには、この川を渡らねばならないのだ。流れが激しく、魔物も住みついているため難所でもある。
「この川を越えてすぐの所に、スレルミアの町がある。そこにワシの知り合いがおるのだ。名はクラフト。おそらく、クラフトならばお主の魔力の正体も掴めるじゃろう」
「クラフトさん、ですか」
「うむ。会って損はないはずじゃ」
 こうして、三人の次の行き先はスレルミアと決まった。この後、三人はリーガルに改めてお礼を言い、宿に戻った。
 メイジが自室で紫のローブを脱ぎ、布の服に着替える。当たり前と言えば当たり前だが、オリアーと比べると頼りない体格だ。鎧など、とてもじゃないが着る事など出来ないだろう。しかし、その代わりに魔力がある。だが、ごうけつぐまにも、ファネルにも自分の呪文は通じなかった。
「強くなったのだろうか」
 メイジは呟いた。リーガルの元で修行した。魔力を測る、という魔方陣は黒色に輝いた。強くはなったはずだ。だが、魔物に、魔族に通じるかどうかは分からない。
「底知れぬ魔力、か」
 リーガルが言っていた事を思い出しながら、メイジは眠りについた。

       

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