Neetel Inside 文芸新都
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ドラゴンクエストオリジナル
スレルミア河川〜

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 ヒウロ達はラゴラの町を出発し、スレルミア河川を渡ろうとしていた。この川は常に激流であり、空でも飛ばない限りは人間の足で渡り切れるものではなかった。水しぶき舞う中、ぽつんと配置されている頼りない吊り橋が唯一の交通手段だが、雨天の場合はこの吊り橋も使えなくなる。これらに加え、魔物たちの脅威もあった。
「しかし、もっと違うルートがあったんじゃないかな」
「ヒウロ、何か言ったか?」
 メイジが大声で聞き返す。激流の音で声がかき消されるのだ。吊り橋までの道のりも、断崖絶壁のわき道しかない。すぐ下はスレルミアの激流だ。間違って足を滑らせたら、命の保証は無かった。
 こんな地形のためか、スレルミアの魔物は空を飛べる種族が大変を占めていた。近接攻撃を得意とするオリアーには厳しい場所だ。剣を振れる立ち位置が限られているからだ。ここでの戦闘の要は呪文、つまり魔法使いであるメイジになるのだ。
 わき道の先頭を歩いていたオリアーが剣を抜いた。後ろを振り返り、二人に目配せする。上空。
「二人とも、フーセンドラゴンとキラーモスです」
 フーセンドラゴン、その名の通りに身体が風船のように膨らんでおり、その浮力で宙に浮いているドラゴンだ。正統派のドラゴンではなく、どちらかと言うと亜種に近いが、ドラゴンの名に恥じぬ攻撃力と火炎を吐く事が出来る。一方のキラーモスは巨大な蛾で、麻痺性のある毒のりん粉を撒き散らし、痺れて動けなくなった生物を捕食する。それは人間も例外ではなく、殺人蛾とも呼ばれていた。
「来るぞっ」
 ヒウロも剣を抜く。キラーモスが羽ばたきながら、突っ込んできた。
「りん粉を吸わないようにしてください、動けなくなります! ヒウロ、キラーモスの狙いは君ですっ」
「あぁ、わかってる」
 ヒウロが肺一杯に空気を吸い込んだ後、息を止めた。キラーモスの突進。剣で薙ぎ払う。しかし、六本の足で剣を掴まれてしまった。そのまま、ワシャワシャとヒウロの方へ詰め寄って行く。
「ッ」
 左手を突き出す。呪文だ。得意ではないが、一時しのぎ程度の呪文ならヒウロも扱える。その瞬間、凄まじい殺気が後ろで巻き起こった。メイジだ。
「ベギラマッ」
 閃光と共に灼熱の炎が舞い上がる。キラーモスの片羽が完全に消し炭となった。顎をガチガチと鳴らしている。痛みに耐えきれないでいるのだ。
「なるほど。修業の効果は上々だな」
 さらに右手を突き出す。
「メラミッ」
 火球。キラーモスの頭・胴を削り取る。チリチリと音を立てながら、残った部分はスレルミアの激流に飲み込まれていった。
「次はアイツだな」
 キッとメイジがフーセンドラゴンを睨みつけた。その気に圧されたのか、フーセンドラゴンは逃げ出してしまった。
「メイジさん、凄い魔力だ」
 呆気に取られながら、ヒウロが言った。剣にはキラーモスの足が付いているが、やがてメラミの残り火で燃え尽きた。
「スレルミア河川の戦闘では、僕の出る幕はなさそうですね」
 オリアーが剣を収めつつ、言った。顔は笑っている。
「冗談はよせ。さぁ、吊り橋を目指すぞ」

       

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