Neetel Inside 文芸新都
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 結構な距離を歩いた。断崖絶壁のわき道。下は激流だ。道の状態も良くなかった。オリアーを先頭に立て、ヒウロ、メイジと隊列を組み、少しずつ前に進む。何度か魔物とも遭遇した。だが、戦闘はさほど苦労はしなかった。メイジの独壇場なのである。
 リーガルの修行でメイジの戦闘能力は飛躍的に向上していた。スレルミア河川最初の戦闘で見せたベギラマ、メラミといった火炎系呪文の威力はもちろん、イオ(爆発系)ヒャド(冷気系)バギ(真空系)といった、他系列の呪文の威力も強烈だった。ここら一帯の魔物は決して弱くない。むしろ、獣の森で遭遇した、ごうけつぐまクラスの魔物がウジャウジャ居るのだ。しかし、その魔物達をメイジは苦も無く蹴散らす。
 メイジは魔物達を蹴散らしながら、少しずつ自信を取り戻していた。ごうけつぐま、ファネルとの戦いで、メイジは魔法使いとしての自信を完全に失っていた。自分の魔法が効かない、通用しない。それは、自身の存在価値を否定されている事と同じだった。メイジはオリアーやヒウロよりも、一つ年上だ。だから、二人ともメイジの事を兄のように慕っている。しかし、力が足りない。兄のような存在なのに、年上なのにだ。だからこそ、魔法使いとしての力と自信が必要だった。人一倍、責任感も強い。自分の力不足を表情には出さないが、痛感していたのだ。しかし、今はそうではない。自分の呪文が魔物を次々となぎ倒していく。これがメイジに自信を与えた。しかし、表情には出さない。メイジはこういう人間だった。
「メイジさん、ヒウロ、吊り橋が見えました」
 オリアーが声をあげた。少し高い所にあるせいか、風で少し揺れている。ここからは聞こえないが、縄のきしむ音もしていそうだ。
 同時にオリアーは、殺気を感じ取った。後ろの二人は殺気に気付いていない。オリアーは鋭い感性を持っていた。野生の勘とも言うべきか、これのおかげで戦闘中の敵の次の動きも読めた。生まれついての感性だが、戦士にとって必要不可欠なものの一つだ。
 オリアーが辺りを見回す。吊り橋の所は高台の広場のようになっており、少なくとも今居る場所よりは足場が良さそうだ。ここで戦闘が起きれば、メイジの呪文でしか対抗できなくなる。おそらく敵は飛行手段を持っている。そして。
「魔族ですね、この感覚……。ファネルとは少し違う気もしますが」
 呟く。どれほどの力の持ち主なのか。正直言って、ファネルと同等、もしくはそれ以上となると勝つ事は難しい。どの道、この場所はまずい。
「二人とも、駆けます。吊り橋の所までです」
 走った。グズグズしている暇はないのだ。殺気は依然、感じる。だが、強くはならない。様子を見ているのか。
 後ろの二人も懸命に駆けている。ヒウロはすでに剣を抜いていた。殺気を感じ取ったのだ。オリアーも剣の束に手をかけた。高台。風が鳴っている。殺気。強烈だ。
「ッ」
 一閃。金属音。剣を抜いていた。手が痺れている。
「フヘヘ」
 声のする方をキッと睨みつけた。上空。コウモリのような翼に青い肌、細身ながらも筋肉質な身体、そして一メートルはあろうかという長く太い爪。
「このバーザム様の一撃を受けるたぁ、中々やるじゃねぇか」
「やはり、魔族ですか」
 オリアーが剣の束を何度か握り込む。手の痺れは消えた。ヒウロ、メイジの表情が厳しくなった。魔族。あのファネルの強さが脳裏をよぎる。もしあのファネルよりも強ければ……。こう考えざるを得ない。無理もなかった。魔族との対戦経験は、あのファネルだけなのだ。
「フーセンドラゴンがとんでもねぇ人間が居るとか言ってやがったから、どんなもんかと思えばただのガキかよ」
 バーザムが鼻で笑う。
 フーセンドラゴン。キラーモスと一緒に居たアイツか。逃げて親玉に報告したのか。そう考えながら、メイジは杖を構える。ファネルには自分の呪文は通用しなかった。だが、あれから強くなっている。しかし、相手はファネルとは違う魔族だ。不安と期待が入り混じる。
「まぁ良い。殺しとく」
 コウモリのような翼をはためかせ、バーザムは襲いかかって来た。口元が緩んでいる。笑っていた。

       

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