Neetel Inside 文芸新都
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 激流の音の中で金属音が弾けていた。
 魔族、バーザムとの交戦である。地の利はバーザムの方にあった。何せ、空を飛べるのだ。一方のヒウロ達は、この高台の上で戦うしかない。戦闘可能な場所が限定されているのだ。しかし、やるしかない。出来なければ、殺されるだけだ。
 オリアーが懸命に凌いでいた。バーザムは攻撃的な性格で、引っ切り無しに自慢の太い爪を振りかざしてくる。上空へ舞い上がり、落下速度を上乗せして振り回す爪の威力は尋常ではなかった。一撃、また一撃と受ける度に、オリアーの手の感覚が消えていく。もう剣を握っているかどうかも分からない。そしてバーザムは笑い声を上げながら、さらに攻撃を繰り出す。オリアーは地に足をめり込ませるかの如く踏ん張り、堪え凌いだ。
 キッカケが必要だった。バーザムは自由自在に空を飛びまわり、自分の好きなタイミングで攻撃を繰り出してくる。一方のヒウロ達は、相手の攻撃のインパクトの瞬間しか反撃できるチャンスがない。バーザムの動きを封じなければ、反撃の糸口は見えないのだ。そしてその糸口は、剣ではなく呪文になるはずだ。
「オリアーが耐えてくれたおかげで、奴の攻撃方法が見えた」
 メイジが呟く。
 バーザムの攻撃方法は一撃離脱に特化していた。おそらく細かい連打は得意ではない。その証拠に、一撃を打ち込んですぐに上空へと舞い上がっている。落下速度が無ければ、攻撃力もそこまで高くないはずだ。その代わり、素早い。剣では到底、捉えきれるものではないだろう。それは、魔法使いのメイジにも分かった。
 右手に魔力をとどめた。いつでも呪文を撃てるようにだ。次の一撃で捉える。使うのは真空系・中等級呪文バギマ。真空の呪文で切り刻んでみせる。それが出来ずとも、戦闘の流れは変わるはずだ。各系統の攻撃呪文の中で、バギ系統の発生の速さはピカイチだ。
 バーザムが上空でひるがえる。突っ込んでくる。オリアーが剣を構えた。交わるかどうかの刹那。
「バギマッ」
 真空の渦がバーザムの目の前で巻き起こる。しかし、避けた。身体をひねり、渦をかわした。だが、態勢を崩している。間髪入れずにヒウロが剣を振った。爪で弾き返す。さらに振る。
「しつけぇぞ、ガキがっ」
 翼を二度、三度とはばたかせた。強風が巻き起こり、真空の刃がヒウロに襲いかかる。
「ッ」
 無数の鮮血が宙を舞った。だが、ひるまない。
「このぉっ」
 剣を振り下ろす。バーザムが身体をひねる。空振り。バーザムはその隙を逃がさない。爪。瞬間、火球が目の前を掠めた。キッと飛んできた方を睨みつけた。さらに二発の火球。爪で弾き飛ばしてやる。そう思い、火球に向かって爪を振るった。
「うげっ!?」
 なんと爪が叩き折られたのだ。火球は勢いを失う事なく、バーザムの身体を吹き飛ばした。黒煙と共に螺旋を描き、地面に投げ出される。
「な、なんだぁ……!?」
 バーザムはまだ状況を理解できていないようだった。逆にメイジは厳しい表情のまま、右手を突き出したままだ。そして魔力をとどめる。
 通用する。魔族に自分の呪文が通用する。表情は厳しいままだが、メイジは自信を完全に取り戻した。そして同時に、勝機も見えた。
「ちぃっ……。魔法使いか……」
 バーザムが静かに呟いた。

       

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