Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 バーザムが身体を起こした。メラミのダメージ。深刻ではないが、効いている。この事実にイラつく。
 次いで、オリアー、ヒウロに目をやった。剣を構えている。先ほどのぶつかり合いで、この二人の大体の実力は読めた。自分のスピードには付いて来れない。圧倒できる。いや、圧倒してやる。問題は後ろの魔法使いだ。身体能力は高くはないだろう。だが、このダメージ。呪文の威力は本物だ。
「ぶっ殺してやる」
 バーザムが口元を緩めた。
「ピオリム」
 素早さ増強呪文。バーザムのスピードがさらに上がった。そして羽ばたく。翼の動きがどんどん速くなる。
「ヒウロ、メイジさんについて下さいっ」
 オリアーが叫んだ。表情が厳しい。バーザムの考えを読み取ったのだ。オリアーのこの類の勘は優れている。ヒウロがメイジの方へ向って走る。その刹那、旋風。ヒウロの真横を竜巻が過ぎ去った。いや、違う。バーザムだ。
「は、速い! メイジさんっ」
「……っ」
 覚悟を決めた。杖を構える。しかし、何も見えない。視認できない。メイジは魔法使いだ。近接戦闘が不得手なのだ。ましてや、このバーザムの素早さ。
「ファネルより上です。メイジさん、ヒウロの方に駆けてくださいっ」
 ピオリムがかかっているせいもあるが、あの飛行速度での一撃は魔法使いには厳しい。杖で受ける事もままならないはずだ。
「イオラッ」
 一か八かだ。メイジが上空に爆発系・中等級呪文を放った。眩い閃光と共に轟音が鳴り響く。しかし、手ごたえはない。バーザムには見えている。闇雲に撃った呪文をかわすなど、造作もないのだ。それどころか、不意を突かれない限りは全てかわす自信がバーザムにはあった。
 旋風。鋭い音。
「ちぃっ」
 メイジが膝をつく。左腕をえぐられた。ローブが完全に切り裂かれ、血が流れ出ている。
「ヒャァッ」
 奇声。同時にヒウロがメイジの前に立ちはだかった。爪。金属音。剣で受けたのだ。ヒウロには見えている。だが、反撃の余裕はない。さらに一撃、さらに一撃。遠巻きから見れば、ひっきりなしにバーザムが攻撃を繰り出しているように見える。ヒウロの表情が歪んできた。耐えきれない。
「バーザムッ」
 オリアーがさらにたちはだかる。
「虫けらが何匹集まろうが、同じこと。血を見せろッ」
 バーザムが上空で翼を羽ばたかせた。周囲の空気から音が鳴る。鋭利な音。
「真空波ッ」
 瞬間、見えない刃が三人の身体をズタズタに斬り裂いた。
「ま、まだですっ。二人とも、僕の後ろにっ」
 オリアーが仁王立ちで耐えていた。息が荒い。
「ライデインだ、ライデインしかない」
 ヒウロが息を弾ませながら、呟いた。

       

表紙
Tweet

Neetsha