Neetel Inside 文芸新都
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「ライデインだ、ライデインしかない」
 ヒウロの呟きを、メイジは聞いていた。
 ライデイン。ファネルを退けた雷撃呪文だ。確かに決まれば、形勢は変わるだろう。だが、決まればの話だ。まともに撃った所で、当たるとは思えなかった。このバーザムの素早さだ。不意を突く必要がある。
 これまでの戦闘を振り返る。ヒウロはまだ呪文を見せていない。オリアーと共に、剣のみで戦ってきた。呪文を主体に戦っているのを見せたのは、自分だけだ。つまり、バーザムの頭にはヒウロの呪文は入ってないと考えて良い。入っていたとしても、剣を主体に戦っている事から、脅威とは感じていないはずだ。何らかのキッカケがあれば、ライデインは決まるかもしれない。
 しかし、この左腕で。バーザムにひどくえぐられた。感覚も消えている。ヒウロがライデインを撃つなら、自分が補助をしなければならない。その補助をする際に必要なのが、左手だった。リーガルがマホイミの紋章を左手に授けたのだ。そして左手がヒウロの身体に触れておかなければならない。
「メイジさん、その左腕」
 ヒウロが傷の深さに気付いた。すぐに治癒呪文を唱えようとした。しかし、メイジは首を横に振った。
「その魔力をライデインに回せ。それに易々と回復をさせてくれそうにない」
 オリアーも限界が近い。通常攻撃を受ける度、後退りをしている。そして真空波。仁王立ちで三人分のダメージを受けているのだ。鎧はすでにズタズタにされている。
 考えた。呪文単発では決め手に欠ける。やはりヒウロのライデインだ。問題はどう決めるかだった。
「ヒウロ、俺の左手を握れ。ライデインだ」
 左腕は持ち上がらない。ヒウロがそっとメイジの左手を握った。血で濡れている。
 バーザムはバギマで態勢を崩した。空を飛んでいるのだ。空気の流れを変えれば、また態勢を崩すかもしれない。しかし、今はバーザムの動きが見えない。ピオリムを使う前は、奴の動きを視認できた。オリアーと交わる瞬間に、バギマを滑り込ませる事ができた。今は金属音が聞こえる程度で、動きは全く視認できなかった。
「奴の動きを止める事さえ出来れば」
 ヒウロに呪文のタイミングを教えてもらえば。いや、それではダメだ。タイミングは分かっても、位置が分からない。位置まで伝えるには時間が短すぎる。
 ふと、メイジの頭にリーガルの修行の場面が浮かんだ。メイジは以前、手の魔力のみで呪文を使っていた。今は全身の魔力で呪文を使っている。何かが引っ掛かる。手の魔力、全身の魔力。行けるかもしれない。メイジはそう思った。
「ヒウロ、バーザムがオリアーに攻撃を仕掛けるタイミングを教えてくれ」
 行けるはずだ。タイミングさえ分かれば、いける。
「分かりました。でも、位置が」
 ヒウロもそこまで読んでいたようだ。しかし、考えがある。メイジの表情に自信があった。
「……メイジさんを信じます」
「俺がバーザムの動きを止める。奴の動きが止まったら、すかさずライデインだ」
 二人に緊張が走った。

       

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