Neetel Inside 文芸新都
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「く……っ」
 オリアーがついに膝をついた。限界なのだ。バーザムの連続攻撃、真空波。一人で攻撃の全てを受けていた。もう何も出来ない。次の一撃で力尽きる。だが、剣を杖に身体を支えた。メイジとヒウロが居る。二人を信用している。何か手を考えているはずだ。
 メイジが右手を開いた。次いで集中する。左腕の痛みが集中力を奪う。しかし、振り払った。今から自分がやろうとする事は、生半可な集中力では成し遂げる事が出来ないのだ。
 リーガルの修行を思い出す。メイジは以前、手の魔力のみで呪文を撃っていた。しかし魔力は全身に存在する。そして呪文は手から放つ。ここにメイジは着眼点を置いた。もし、呪文を指から放つ事が出来るならば?
「右手だけで最大五つの呪文を同時に撃てる。オリアーの周囲を囲える。バーザムの動きを止められる」
 しかし、賭けだ。指から呪文を放つ、それも5つ同時に。こんな話、聞いた事もなかった。当然、前例すらない。しかし、メイジには自信があった。漠然としたものだが、出来ると感じた。いや、そう感じたいだけなのか。出来なければ、全滅なのだ。わずかな可能性にすがるしかないのが現状だった。
「メイジさん」
 ヒウロ。目が上下左右に動いている。バーザムの動きを追っているのだ。メイジが目をつむる。もうオリアーの位置は覚えた。あとは集中力の問題だ。ヒウロの合図と同時に、撃つ。5つのバギマを。
「今だっ」
「死にさらせッ」
「バギマッ」
 魔力の渦。オリアーの周囲で巻き起こる。竜巻。
「なっ」
 バーザムの身体が弾かれた。翼が斬り裂かれ、呆気に取られている。いや、驚いているのか。五つのバギマ。バーザムの動きが完全に止まっていた。
「ヒウロ、決めろッ」
 左手。握られている。間髪入れず、ヒウロが剣を天に突き上げた。雷雲。稲光。
「ライデインッ」
 同時に剣を振り下ろした。青白い閃光。ヒウロの闘気。雷撃が次々と降り注ぐ。バーザムの顔が歪んでいる。そんなバカな。声にはなっていない。しかし、叫んだ。心の中で叫んでいた。
「聖なる稲妻よ、邪悪なるものを撃ち滅ぼせッ」
「グギャァァァッ」
 断末魔。稲妻がバーザムの身体を次々と貫いているのだ。ガクガクと痙攣し、目は白眼を剥いている。
「グ……バ……ッ」
 雷雲が晴れると同時に、バーザムは地に伏した。それから間もなくして、バーザムの死体は消えた。つまり、勝ったのだ。ヒウロ達は、魔族を倒したのだ。
「や、やった……」
 ヒウロが息を切らしながら、呟いた。剣を杖に立っているオリアーが振り返る。笑っていた。
「メイジさん、やりましたよっ」
 左手を握ったまま、ヒウロはメイジの方に振り向いた。
「あ、あぁ……」
 メイジが地面にへたれこむ。疲弊しきっているのだ。無理もなかった。バギマを5つ同時に撃った直後、ライデインの補助を行ったのだ。普通の魔法使いでは魔力切れどころか、命を失ってもおかしくはない。呪文を5つ同時に放つ。この前例がないのは、それを行うために必要な魔力を備えている人間が居ないからだ。出来るとすれば、かつての魔人レオンのみだろう。それをメイジは成し遂げたのだった。
「そうだ、左腕」
 ヒウロがすぐにベホイミを唱えた。
 魔族に勝った。だが、凄惨な光景だった。ギリギリの戦いだったのだ。オリアーはもちろん、メイジも次の戦闘には参加できそうになかった。幸い、スレルミアの親玉はバーザムだ。その親玉を討ち取ったせいか、周囲に魔物の気配はなかった。それにヒウロは安堵していた。だが、その安堵はすぐに消えた。
「バーザムを消すとはな。しかもライデイン。ファネルの言っていた事は本当だったという事か」

       

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