Neetel Inside 文芸新都
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 オリアーがドアノブに手をかけた。同時に、クラフトの眉が少し動く。手をかける事が出来た。この事実に少しばかり驚いたのだ。そのままドアノブを回す。ギィっという木の軋むと音と共に、扉が開いた。
「素晴らしい……。これは期待ができそうです」
 クラフトが呟いた。
 このエクスカリバーが置かれている部屋には、封印呪文が掛けられていた。邪悪なる者はもちろん、普通の人間もドアノブに触れる事すら出来ない。空気の膜のようなものが張ってあり、押し返されるのだ。さらに無暗に開けようとするものなら、強烈なしっぺ返しをくらう仕組みになっている。そしてこの扉を開ける資格を持つ者。それは、クラフト一族、もしくはエクスカリバーと対面するにふさわしい者、この二通りのどちらかの人間だけなのだ。
 無論、ヒウロ達はそんな事を知る由も無い。頭の上にはクエスチョンマークだ。
「さぁ、オリアーさん。中へ」
 オリアーが頷いた。クラフトが部屋の中に入る。それにオリアーが続く。ヒウロ達も入ろうとしたが、何か見えない力で押し返された。それ所か、部屋の中を見る事もできない。眩い白い光で目を開けていられないのだ。
「あなた方はそこで待っていてください。この部屋に入るには資格が必要なのです。無理に入ろうとすれば、命を落とします」
 クラフトの声。命を落とす、という言葉に二人は息を呑んだ。オリアーには部屋に入る資格がある。自分達にはそれが無い。単純な話だった。
 オリアーの心は落ち着いていた。大広間。ここはずっと前から知っている。そんな感覚さえあった。ステンドガラスの窓から日光が溢れ、部屋は明るい。そして、部屋の中央に一本の剣。エクスカリバー。石の板に突き刺さっている。あれから何百年も経っているだろうに、刃は今生まれたかのように白銀に輝いていた。
「オリアーさん、エクスカリバーに触れる事ができますか。抜けますか」
 クラフトが言った。手を後ろで組んでいる。
 クラフトの胸は高鳴っていた。確信に近いものがある。抜ける。かつて、この部屋に入る事が出来た人物が、一族の人間以外に一人だけ居た。その人物ではエクスカリバーに触れる事が出来なかった。無論、クラフト一族もそうだ。エクスカリバーに触れる資格を持つ者、それはエクスカリバーに選ばれた人間のみ。だが、この少年ならば。
 オリアーが一歩ずつ、エクスカリバーに近づいていく。声が聞こえる。美しい、清らかな声。剣。エクスカリバー。目の前の一本の剣がオリアーに話しかけている。
「我、シリウスの片腕なり。魔力を剣にとどめし力を持つ者よ。我を振るい、邪悪なる者を撃ち滅ぼさん」
「エクス……カリバー。僕は、あなたを知っている。僕の剣。僕に振るわれるため、あなたはここで待っていた」
 オリアーがエクスカリバーの束に手を掛けた。闘気。オーラが部屋中を包み込む。
「おぉ……ついに、ついにこの時が」
 クラフト。声が震えている。
「エクスカリバーよ、僕と共にッ」
 一気に引き抜く。白光。輝き。クラフトが目を瞑る。封印が解かれた。永き眠りについていた伝説の剣が、今目覚めた。
「オリアーさん、あなたがシリウス様の、エクスカリバーの後継者だったのですね」
 クラフトが目を開ける。そこには、片手でエクスカリバーを握っているオリアーの姿があった。
「ずっと前から知っている。そんな感覚です。初めて見た剣なのに、初めて持った剣なのに、僕に馴染んでいる。どんな剣よりも」
 言って、二度、三度と剣を振る。風を斬る音が鋭い。それを見たクラフトが、小さく頷いた。
「リーガルさんは、おそらくこうなる事を予見しておられた。オリアーさん、部屋を出ましょう。その剣の力、いえ、あなたとエクスカリバーの力をご説明致します」
 クラフトの表情は凛々しかった。

       

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