Neetel Inside 文芸新都
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 クラフトの屋敷の訓練場で、ヒウロ達は自らのレベルアップを図っていた。まずはオリアーがエクスカリバーを使いこなせるようになる事だった。全てはそこから、と言って良い。ヒウロも稲妻の剣に慣れる必要がある。手に馴染んだ、と言っても、実際に使いこなすとなると話は別なのだ。
 オリアーの訓練は単純な形式だった。メイジが呪文を唱え、エクスカリバーに放つ。それをオリアーが留める、といった事を繰り返し行うのだ。最初はオリアーも力の出し方が分からず、エクスカリバーが呪文を弾くだけだったが、クラフトが呪文を留める事をイメージする事。そして、その力が自分にあると信じる事。この二つのアドバイスをキッカケに、少しずつ魔力を留める事が出来るようになってきた。しかし、それでも実戦で使うには程遠い。静止した状態で留める事が出来ても、剣を振ると魔力が四散してしまうのだ。つまり、魔力が外に逃げる。これでは、エクスカリバーの力を完全に発揮する事が出来ない。だが、オリアーは挫けなかった。元々、生真面目な性格なのだ。やると決めた事は絶対にやり通す。そういう男だった。メイジもそれを分かっていた。呪文の連続使用は正直、メイジにとっても楽ではない事だったが、耐えた。仲間だからだ。オリアーの手助けになるのなら、協力する。それがメイジだった。
 ヒウロはそんな二人を脇目に、稲妻の剣を振るう。今、自分にできる事はとにかく強くなる事だった。自分にはライデインがある。だが、まだそれを使いこなす事が出来ない。メイジの助けが必要なのだ。情けなかった。力はある。だけど、それを使いこなせない。その悔しさをバネに、ヒウロは訓練に打ち込んだ。リーガルから、魔道よりも剣の方が向いている、とも言われた。今はとにかく、稲妻の剣を使いこなせるようになる事だ。
 スレルミアの町に滞在して、二週間が経過しようとしていた。
「ふぅー……。やっと、安定してきました」
 オリアーが片手で額の汗をぬぐった。兜は外してある。エクスカリバーの刀身は、炎に包まれ揺らめいていた。
「やったな、オリアー」
 軽く息を切らせながら、メイジが言う。すると、拍手が聞こえてきた。
「素晴らしい。わずか二週間で結果を出すとは。さすがにエクスカリバーが選んだ剣士です」
 クラフトだ。
「しかし、長く実戦から遠ざかっていました。後はその勘を取り戻さないと」
 オリアーが言う。しかし、その通りだった。オリアーは魔力を剣に留める訓練しかしていないのだ。実際に戦闘して結果を出さない限りは、真に会得したとは言えない。
「では、ヒウロさんと模擬戦闘をしてみましょうか」
 そう言い、クラフトが顎の髭をなじる。その背後から、ヒウロが出てきた。
「分かりました。オリアー、やろう」
 額に汗をかいている。さっきまで外で魔物と戦ってきたのだ。訓練場で剣をものにした後、ヒウロは実際の魔物を相手に戦ってきた。スレルミア周辺の魔物は、今のヒウロにとって良い勝負相手だった。それだけに得た経験も大きい。オリアーとの剣術の差は埋まったと考えても良いだろう。
「ヒウロ、手加減はナシですよ」
「分かってるさ」
 両者の表情が引き締まる。ヒウロが稲妻の剣を振るった。電撃。風を斬る音と共に、バチバチと音が鳴る。電撃の軌跡も見える。剣を完全に自分のものにした。ヒウロは素振りでオリアーにそう教えたのだ。
 対するオリアーは呼吸を整え、集中していた。メイジの呪文をエクスカリバーに宿すのだ。慣れたとは言え、まだまだ難易度は高かった。柄を何度か握り込む。いつでも行けます。エクスカリバーにそう言った。目を瞑る。
「では、メイジさん。オリアーさんの剣に呪文を」
「はい」
 メイジが右手を突き出す。魔力の鼓動。
「メラミッ」
 火球。螺旋を描き、エクスカリバーに突っ込んでいく。オリアーが目を開いた。
「行きます、ヒウロッ」
 メラミが剣に宿った。業火に包まれたエクスカリバーを構え、走り出す。

       

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