Neetel Inside 文芸新都
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 火花。甲高い音が部屋中に響き渡る。両者が歯を食いしばる。鍔迫り合い。両者が互いの目を見る。ヒウロとオリアーの模擬戦だ。エクスカリバーに宿った業火が燃え盛る。まるで、今のオリアーの闘志を現わしているかのように。ヒウロが斬り払った。電撃の軌跡。音。距離が離れた。
「ほう」
 クラフトが声を漏らした。クラフト自身も剣の心得がある。それもかなりの腕だ。スレルミアの町では剣豪で名を馳せていた事もある。今は一族の領主として、現役を引退しているが、血が騒いだ。たったあれだけのぶつかり合いで、二人の剣の腕は相当なものだと判断したのだ。
 剣と剣が馳せた。勇者アレクの稲妻の剣。剣聖シリウスのエクスカリバー。使い手は違えど、時代を超えて二つの剣はもう一度出会った。かつて、アレクとシリウスは剣を交えた事があった。旅に出る時に。自らの実力を教えるために。相手の実力を知るために。
 電撃。炎。乱舞する。まるで生き物のようにうねる。跳ねる。散っていく。ヒウロの剣を受けながら、オリアーは懸命に魔力を剣に留めていた。集中。これが一瞬でも途切れたら、魔力は散ってしまう。剣が重なり合う度に、炎が燃え上がる。エクスカリバーの鼓動を感じる。そして、ヒウロの剣術の向上。実際に剣を交えてわかったが、腕をあげている。油断できないのだ。オリアーの知っているヒウロの剣は、どこかにまだ甘さがあった。それが完全に消えている。勇者としての自覚なのか、悔しさから来た反骨心なのか。どちらにしろ、今のオリアーにとってはありがたかった。本気を出せる。
「オリアー、次の俺の一撃、受けられるか」
 ヒウロがニヤリと笑った。自信がある。オリアーは瞬時に感じ取った。息を一度、吐く。そして静かに目を瞑った。
「受けてみせます」
 目を開く。刹那、風。稲妻の剣。受ける。軽い。フェイントか。
「隼斬りッ」
 瞬間、電撃が二度走った。身体の芯を貫く。エクスカリバーで受け流していた。だが、これは。
「くっ」
 思わず、顔が歪んだ。目にも止まらぬ速さで二回、剣を振るったのだ。それも重い。全力で一撃を振られるよりも、ずっと強烈だ。それを稲妻の剣の電撃が助長している。やる。オリアーは正直にそう思った。 
 苦し紛れに剣を横に薙ぐ。炎はまだ剣に宿っている。集中力は途切れていない。次はこちらの番だ。剣を構えた。集中力を増す。見る見る内に炎が燃え上がり、やがてエクスカリバーを螺旋状に覆い尽くした。
「これは」
 クラフトが呟く。同時にオリアーが駆けた。剣を振りかざす。ヒウロが稲妻の剣を構えた。受け止めるつもりだ。
「火炎斬りッ」
 魔法剣技。炎と剣の同時攻撃だ。金属音。受け止めた。瞬間、螺旋を描いていた炎がヒウロの身体に絡みついた。そして、そのまま焼き尽くしていく。
「……ッ」
 さらに剣を薙ぐ。炎が追尾する。ヒウロが懸命に距離を取ろうとするが、オリアーは逃がさない。金属音。剣と剣がぶつかり合う。互角。しかし、その均衡も崩れてきた。火炎の力である。いくらヒウロの稲妻の剣に魔力が込められていようと、実際に具現化・纏っている火炎には及ばないのだ。次第に、ヒウロの動きが鈍くなってきた。オリアーがそれを見逃すはずがない。稲妻の剣を弾き飛ばせば、勝負は終わる。
 オリアーは剣を弾き飛ばそうとしてくるはずだ。その一瞬に全てを賭ける。ヒウロはオリアーの動きを注視していた。剣を弾き飛ばそうとした瞬間、隼斬りでカウンターを取る。劣勢なのは間違いないが、まだ逆転は十分に可能だ。ヒウロはそう思った。
 オリアーが剣を振りかざす。その瞬間だった。
「そこまで」
 クラフトが止めた。このまま続ければ、どちらかが無事では済まない。そう判断したのだ。それ程、緊迫感があった。実力もほぼ互角だ。
「二人とも、お見事です。それで、オリアーさんはどうでした。エクスカリバーの方は」
 すでにエクスカリバーから炎は消えている。
「まだまだですね。経験が必要です。ですが、ヒウロのおかげで大体の感覚は掴めました」
「なるほど。ヒウロさんの方は?」
「さすがに勇者アレクの使っていた剣です。エクスカリバーとのぶつかり合いでも、引け目を感じませんでした」
 自身の腕ではなく、剣の力で渡り合えた。そう言っている。この少年は、まだ自分の力を信じ切れていないのだろう。クラフトはそう思った。
「分かりました。では、一旦、部屋に戻りましょうか。少し休憩しましょう。その後、私の方から皆さんに聞きたい事があります」
 クラフトが顎鬚をなじりながら言った。

       

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