Neetel Inside 文芸新都
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 訓練を終え、ヒウロ達は来客用の部屋で休憩を取っていた。この後、クラフトと話をする予定だ。聞きたい事がある、と言われたのだ。
 ヒウロもオリアーも互いの力を讃え合っていた。二人が剣を交えた事は今までに何度かあったが、それらはお遊びのようなものだった。そして、エクスカリバー。魔力を留める力もそうだが、武器そのものの切れ味も相当なものだ。鋼の剣程度なら、簡単に両断してしまうだろう。何より、オリアーは剣を振っている、という感覚がなかった。自分の身体の一部、と言っても良い。それ程、エクスカリバーとオリアーの相性が良かった。
「みなさん、そろそろよろしいですかな」
 クラフトが部屋に入り、三人の前に座る。
「はい。それで聞きたい事とは?」
 ヒウロが言う。
「単刀直入に行きましょう。旅の目的です。あなた方、三人の旅の目的とは?」
 沈黙。素直に言うべきなのか。魔族を、魔王を倒す。だが、言うべきか迷った。何故なら、魔王復活の件は、まだ噂レベルでしか民衆の間では話があがっていないのだ。ヒウロ達とて、実際に魔族と剣を交えるまでは半信半疑な所があった。
「正直に話して頂きたい」
 クラフトがヒウロの目を見てきた。真剣な目だ。
「ヒウロ」
 メイジ。ヒウロの目を見て、小さく頷いた。真実を話せ。目で言った。クラフトはある程度の情報をすでに掴んでいる。メイジはそう勘付いたのだ。
「……魔王を倒しに行きます。そのために、まずはルミナスを目指しています」
 ヒウロが言った。すると、クラフトが二コリと笑った。
「やはり、そうでしたか」
「やはり? と言うと?」
「エクスカリバーがオリアーさんを選びました。あの剣が選ぶ人、それはすなわち、それ相応の目的と力があるという事です」
 すでにクラフトは見当をつけていたという事だ。
「そして、魔王復活。噂には聞いていましたが、本当だったのですね」
「……残念ながら。すでに魔族とも交戦しています」
 クラフトの眉が少し動いた。魔族と交戦している。そしてこの場に居る。つまり、勝った事がある。少なくとも、交戦して無事だったという事だ。今更ではあるが、エクスカリバーが選んだのにも納得が行く。
「さすがです」
「でも、クラフトさん、本当に僕がエクスカリバーを?」
 オリアーが言った。エクスカリバーはシリウスがクラフト一族に守り抜くように頼んでいた剣なのだ。それを易々と自分が受け継いでも良いのか。オリアーは少し困惑していた。
「エクスカリバーが選んだのです。ならば、我らはそれに従うまですよ。稲妻の剣も同様です。使い手が剣を選ぶように、剣も使い手を選ぶ。二本の剣は、良い主に出会えました。何しろ、魔族を倒そうという人たちです。剣も、かつての使い手も満足でしょう」
 クラフトがほほ笑む。
「クラフトさん、何か魔族について知っている事はありませんか」
 ヒウロが言った。身を乗り出している。今はとにかく情報が欲しかった。クラフトなら、何か知っているのでは。そう思ったのだ。
「残念ですが、私の知っている知識はみなさんとそう変わりないでしょう。いえ、戦闘経験のあるあなた達の方が詳しいかもしれない」
「……そうですか」
「ですが、ルミナスは別です。ルミナスは大陸最大の王国。魔族の情報はもちろん、その他の色々な情報も手に入るはずです」
「はい」
 ここスレルミアを発てば、ルミナスへの道のりは残り僅かだった。最後の難所、リデルタ山脈を越えた先にあるのだ。女子供の足では険しい道のりだが、スレルミア河川よりはマシと言える。ただし、魔物の脅威は遥かに増す事になるはずだ。
「しかし、あなた達に出会えて良かった。所で、この町はいつ発つのです?」
「明日の朝にでも、と考えています」
 今日はもう旅立つには時間が遅い。訓練の疲れもある。
「そうですか。どうでしょう。今日は、我が屋敷に泊まっては?」
 断る理由は無かった。三人は頷き、クラフトの厚意に甘えさせてもらう事にした。

       

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