Neetel Inside 文芸新都
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「そう、私は女。けど、強さに性別は関係ない」
「……フン」
 ファネルが鼻で笑った。確かにそうだと思った。目の前のこの女は、魔物の群れを消し飛ばしたのだ。強さは本物だろう。ファネルはそう思った。
「なるほど、魔法剣か。人間の分際で」
 魔法剣の使い手というだけで、ある程度の強さは計れる。
「あなたが魔物の大将?」
「そうだと言ったら?」
「ここで倒す」
 セシルが駆けた。風の魔法剣。速い。
「血気盛んだな。だが、私の目的はお前ではないのだ」
 右腕。剣のような刃。魔法剣を受ける。微かに風を感じた。ジジジと魔力がスパークする音が耳を突く。ファネルが斬り払う。力で押した。所詮は人間の女だ。力は強くはない。だが、魔法剣士はそれを補う能力を持っている。力は無くとも、攻撃力は一級品なのだ。油断はできない。ファネルはそう感じていた。
 押された。だが、あの魔族は油断していない。魔法剣の強さを知っている。セシルは気持ちを更に引き締めた。
「もう少しでアレクの子孫らが来るだろう。その間、お前と遊んでやる」
 アレクの子孫? セシルはその言葉に反応した。アレク。あの勇者アレクの事? いや、それよりも。
「遊ぶ? 本気を出す事態にならないようにする事ね」
「小娘が」
 馳せる。火花、いや、魔力が散った。尚もぶつかり合う。防戦一方では些か(いささか)不利か。ファネルはそう思った。左手。突き出す。衝撃波。
「くっ」
 セシルが態勢を崩す。ファネルはその瞬間を見逃さない。右手。刹那、目の前で爆発が起こった。爆発系下等級呪文イオ。ダメージを与える事が目的ではない。目くらましか。ファネルが警戒する。殺気。魔法剣が飛んでくる。避けた。煙の中からセシル。さらに魔法剣。尚も右手で受ける。
「なるほど、多少はやるようだな。いつぞやのアレクの子孫らよりも手強い」
 オリアー、ヒウロ、メイジの三人を同時に相手にした。それよりも強い。認めてやる。小手調べはこのぐらいで良いだろう。本気を出す。ファネルはそう思った。
「目の色が変わった。遊びでは私を殺せない、と思ったようね」
 セシルが口元を緩めた。だが、息を少し切らしている。強敵。そう思った。
「フン。精々、私を楽しませる事だ。すぐに死んでしまっては、面白くない。本気で戦うのは久しぶりだからな」
 気炎が立ち昇る。左手。周囲の空気が凍てついていく。
「マヒャドッ」
 冷気系最強呪文。無数の氷柱。氷風。鳴いた。氷柱が一気に突っ込む。
「くッ」
 魔法剣で捌く。だが、貫かれた。セシルの全身を氷柱が切り刻む。セシルが片膝をついた。マヒャド。まさか使えるとは思っていなかった。それも強い魔力だ。
「どうした。その程度か。私は手の内を一つ見せただけに過ぎんぞ」
 左手。
「それ、もう一発」
 マヒャド。無数の氷柱。
「そう何度もッ」
 セシルが立ち上がる。魔法剣。頭上に掲げ、円を描いた。この技で。
「エアロブレイドッ」
 エメラルド色に輝く衝撃波。轟音を立ててほとばしる。氷柱を飲み込んだ。そのまま、ファネルへと突っ込んでいく。
「ほう」
 声を漏らしながら、ファネルは左手を突き出した。焦っていない。
「マホターン」
 瞬間、薄い光の壁がファネルの目の前に現れた。マホターン。一度きりの呪文反射だ。エアロブレイドは魔力。すなわち、跳ね返る。自身の技が。
「そんなっ」
「自滅しろ」

       

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