Neetel Inside 文芸新都
表紙

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 セシルが目を瞑った。閃光。痛みは無い。死んだ? いや、違う。
「大丈夫ですか」
 声が聞こえた。目を開ける。鎧、兜。目の前に男が立っていた。剣を構えている。見た事がある剣だ。
「エ、エクスカリバー?」
「もう大丈夫です。音速の剣士さん」
 男が二コリと笑った。その男とは無論、オリアーだ。リデルタ山脈の魔族を片付け、ルミナスまで駆けてきたのだ。
「ほう、貴様か。久しぶりだな」
「……ファネルですか」
 オリアーがキッと睨み返す。エクスカリバーは構えたままだ。
「どうやったかは知らんが、良いタイミングだったぞ」
 エクスカリバーの別名は対魔法剣。呪文を刀身に留める事も出来れば、そのまま弾く事も出来る。かつての歴代最強の魔法使い、魔人レオンの魔力をも自由にできた剣だ。エアロブレイドの魔力を弾く事も難しくはなかった。
 ファネルがオリアーを睨みつける。かつて、自分の右腕の一撃を何度も受けた事のある男だ。あれから、どの程度まで腕を上げたのか。見た所、剣も変わっている。見事な剣だ。魔法剣技をどうにかしたのも、あの剣が一役買っているのだろう。ファネルはそう思った。
「アレクの子孫はどうした?」
「お前に答える義理はない」
 オリアーの闘志。腕を上げている。ファネルは瞬時にそう感じ取った。
「セシルさん、立てますか?」
 ファネルの目を睨みつけたまま、オリアーが言う。
「あ、ありがとう」
 立ち上がる。魔法剣。消えていない。
「女性、だったんですね」
「そうよ」
 だから何? という言外の意味も込めて言い放つ。
「僕はあなたに会ってみたかった」
「え?」
 ドキリとした。一体、どういう意味。
「来ますッ」
 ファネルが突っ込んできた。オリアーがエクスカリバーで受ける。ファネルが空中へ舞い上がった。ファネルは空も飛べるのだ。左手を突き出してくる。オリアーの嫌な記憶が蘇った。あの左手に前回は苦戦させられたのだ。ヒャダイン、衝撃波。あの凄みはまだ記憶に新しい。
「マヒャドッ」
 冷気系最強呪文。本気か。本気を出しているのか。だが呪文ならば。
「僕には通用しないぞッ」
 オリアーがエクスカリバーを大きく横に振った。瞬間、マヒャドが弾かれた。ファネルが舌打ちをする。同時に翻った。突っ込んでくる。
「……あなた、名前は?」
 セシル。この男はエクスカリバーを完全に使いこなしている。マヒャドを弾く様を見て、セシルはそう思った。
「オリアーです」
「そう、良い名前ね」
 言いつつ、魔力を片手にともらせる。
「イオッ」
 ファネルに向かって放った。若干の失速。ぶつかる。オリアーとファネル。力勝負だ。どちらも引かない。瞬間、火球がファネルの目の前を掠めた。この魔力の波動。覚えがある。だが、強い。自分が知っている波動よりも数段、上だ。ファネルはそう思った。キッと火球が飛んできた方向を睨みつける。
「貴様か」
 メイジが右手を突き出していた。表情に自信がある。
「メイジさんッ」
 オリアーが隙をついてファネルを弾き飛ばした。
「ちぃっ」
 瞬間、背後から殺気。ファネルが振り向く。ヒウロ。
「隼斬りッ」
 稲妻の剣。刹那、二回の電撃。身体を貫く。
「がぁっ!?」
 ファネルが思わず声を漏らした。だが、見つけた。アレクの子孫。貴様だ。貴様だけを待っていた。しかし、奇襲とは。戦い慣れしている。獣の森で出会った時はただの小僧だった。今くらった剣技。見事だ。腕も上げている。
「しかし、役者はこれで揃った。あとは私が貴様らを殺すだけだッ!」

       

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