Neetel Inside 文芸新都
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「素晴らしいな」
 ファネルとヒウロ達の戦闘を見ていたディスカルが呟いた。魔界。王の間である。ディスカルの前には四柱神が跪いていた。空間に映像が浮かんでいる。
「見たか、四柱神。ファネルを一捻りだ」
 笑う。肩が揺れている。
「ここまで腕を上げるとは思わなかったぞ。さすがに勇者アレクの子孫だ。そして、その仲間。あの剣士と魔法使いはまだまだ強くなるな」
「ディスカル様、ファネルは弱い魔族ではありません。それを、アレクの子孫は簡単に倒してしまいました」
 四柱神のリーダー格、サベルが言った。
「何が言いたい?」
「並の成長速度ではありません」
 無論、四柱神の実力にはまだ程遠い。ましてや、ディスカル様など。サベルはそう思った。
「楽しみが増えるというものだ。それより、お前達も見たであろう。音速の剣士と呼ばれている人間が居るらしいぞ」
 ディスカルが鼻で笑う。ファネルとの戦いを見ていた。あの程度で音速の剣士。笑わせる。人間(クズ)の底の浅さには同情すら湧いてくる。
「どうされるのですか?」
「私に考えがある。面白い事になりそうだ」
 ディスカルが二ヤリと笑った。
「考え、ですか?」
「あぁ、側近のダールを使う」
 ダール。魔王ディスカルの側近だ。魔族の世界にも人間社会と同じように階級が存在しており、人間社会で言う所の王がディスカル、大臣がダール、そして兵士長が四柱神、といった具合になっていた。ヒウロらに倒されたファネルやバーザムは、ただの一般兵士に過ぎない。中級、下級の違いはあるが、所詮は大勢の中の一人だった。
「ダール様を……」
 サベルはこれでディスカルが何をしようとしているのかを察したようだった。
「我ら、四柱神はいかが致しましょう」
「特に命じる事はない。いや、勝手な行動は起こすな、とだけ命令しておく」
 アレクの子孫はまだ殺すな、と言う事だ。それを聞いた四柱神の一人である筋肉ダルマ、大剣使いのクレイモアがピクリと動いた。クレイモアは四柱神の中では大の戦い好きだった。戦闘狂と言っても良い。戦いたい。クレイモアの心中は逸っていた。
「……サベル。メンバーをよくまとめる事だな。私はお前たちを殺したくない」
 そう言い、ディスカルが指を鳴らした。次の瞬間、ディスカルの両脇に居る女魔族の身体が同時に爆発する。肉片が辺りに飛び散った。
「お前達もこうなりたくないだろう? なぁ、クレイモア」
「……はっ」
 そうだ。魔族にとって、ディスカル様は絶対だ。クレイモアはそれを心に刻み込みなおした。
「まぁ、そう焦るな……。いずれ、アレクの子孫らとは戦う時が来る。今はまだお前達とやらせても面白い戦いにはならん。それでは楽しめんだろう」
 ディスカルが口元を緩めた。
「そう、今は楽しまねばな。音速の剣士、勇者アレクの子孫……。楽しむための材料は揃っているのだ」
 ディスカルの口調は、まさに冷淡そのものだった。

       

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