Neetel Inside 文芸新都
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 ルミナス王国。すでに火は鎮火し、生き残った住民たちは王国の復興作業に没頭していた。凄惨な光景だった。だが、不幸中の幸いと言うべきか、王宮には魔物達の手は及んでいなかった。そして何より、魔族に襲撃されたと言うのに、住民たちの目は活き活きとしていた。それもそのはずだ。勇者アレクの子孫が、魔物を、魔族を倒したのだ。
 ヒウロ達が魔族を倒した事は、すぐにルミナス王国全体に広まった。逃げ遅れていた住民の何人かが戦闘の経過を目撃していたのだ。そこからはあっという間だった。ライデインの現象を知っている人間が王に報告し、ルミナス王とヒウロ達は面会する事となった。そこで旅の目的や、何故ルミナスに来たのか、などのいくつかの質問をされ、それに答えた。あとは賞賛の嵐だ。人類の希望とも言われた。無論、ヒウロ達も悪い気はしなかった。
 特権も与えられた。通常、王宮に入るだけでも許可が要るのだが、ヒウロ達は王宮のどこを自由に使っても良いと言う。ヒウロ達に必要な魔族の情報や、勇者アレクの情報は王宮内の書物庫にあった。この特権は、そんなヒウロ達にとっては思わぬ幸運だ。
「ねぇ、オリアー。ちょっと良い?」
 王宮内の食堂。オリアーが一人で休憩を取っている所を、音速の剣士セシルに話しかけられた。ヒウロとメイジは、情報を得るために書物庫である。
「セシルさん。どうしたんですか?」
「その、エクスカリバーの事なんだけど」
 セシルもエクスカリバーが封印されている部屋に入る事が出来た。だが、剣には触れる事が出来なかった。つまり、セシルはエクスカリバーには選ばれなかったのだ。そして、オリアーは選ばれた。セシルは複雑な気持ちだった。
「ここ、座ってもいい?」
「えぇ、どうぞ」
 オリアーの向かい側の席にセシルは腰を下ろした。
「あなたがエクスカリバーの後継者なのね」
「実感はないですけどね」
 言って、オリアーは二コリと笑った。
「私もエクスカリバーの部屋に入る事が出来たわ」
「えぇ。クラフトさんから聞いていました。まさか、女性とは思いませんでしたよ」
 女性とは思わなかった。この言葉に、セシルはかすかな不快感を持った。男はいつもそうだ。強さ、力は男の特権だと思ってる。女をバカにする。実際にバカにしてきた男も居た。そういう男は容赦なく叩き伏せてきた。
「ですが、セシルさんは強い。ファネルとの戦いを見て、素直にそう思いました」
「そう」
「エクスカリバーが選ばなかった理由も分かる気がします」
「どういう意味?」
「セシルさんは強い。だから、必要ない。エクスカリバーは、そう判断したんだと思います」
 実際にエクスカリバーがどういう基準で判断を下したのかは分からない。だが、オリアーは素直にそう思った。それが表情に出ていた。セシルが申し訳なさそうに顔を伏せる。オリアーはセシルの実力を認めていたのだ。
「ねぇ、あなた達はどういう目的で旅をしているの? 王との謁見の時、魔族を倒すって言ってたけど」
「謁見で言った通りですよ。僕達は、魔族を倒す事を目的に旅をしているんです」
 本気なの、という言葉をセシルは飲み込んだ。ここでオリアーが嘘を吐く理由はない。それにヒウロという少年は、勇者アレクの子孫だと言っていた。にわかには信じられないが、ライデインという納得させるには十分な材料はある。そして、メイジ。偉そうな態度を取って来た男だ。でも、あの男のマホイミには助けられた。力はある。セシルはそう思った。
「その旅に私も加えて欲しい」
 セシルはそう言っていた。勢いなのか。セシルは、人々から音速の剣士と謳われていた。今までに、多くの人を、町を救ってもきた。しかし、一人だった。そこに、魔族を倒す、という目的を持っている人間が目の前に現れたのだ。ならば、自分もそれに加わりたい。セシルはそう思ったのだった。
「何となくこうなる気はしていましたが」
 オリアーが笑った。
「ダメなの?」
「いえ、僕一人で決めるわけにはいかないだけです」
 ヒウロとメイジの意見も聞く。だが、拒否する事はないだろう。同志が増える。しかも強い。断る理由はない。
「僕の方から、話をしてみます。そろそろ、書物庫に戻ろうと思ってましたから」
「えぇ、お願いするわ」
 セシルの目は決意に満ち溢れていた。

       

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