Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 神器。メイジは王宮の廊下を歩きながら、神器について考えていた。
 書物庫で見つけた本には、神が作りし道具、とあった。もしこれが本当の事ならば、相当な力を秘めているに違いない。だが、自分にそれを扱う事が出来るのか。本の紋章は輝いた。つまり、メイジは選ばれし者であるという事だ。しかし、それを扱うに値する力は持っていないのではないか。いや、まだ持っていないのでは、と言った方が正しい。
 確かにメイジはリーガルの修行で魔法使いとしての実力は上げた。だが、扱える呪文が未だに中等級止まりなのである。一般的な見地からすれば、メイジの中等級呪文の威力は、常人の上等級呪文の威力を上回っていた。魔力、という一つの力に関しては、すでにその才を開花させているのだ。
 だが、メイジは、まだ真の実力の半分も発揮できていない。そう感じていた。根拠は無い。傍から見れば、出来過ぎなぐらいではあるが、メイジ自身はそうは思えなかった。
「あら、あなたは?」
 考え事をしているメイジと、ある女性がすれ違った。
「……ん」
 その声を聞いて、メイジが顔をあげる。
「あぁ、これは。失礼しました」
 メイジが姿勢を正した。それもそのはずである。この女性はルミナス王国の第一王女である、エミリア姫なのだ。容姿端麗で礼儀正しく、誰にでも優しく接する人柄からか、民からの人気も高い。次期国王であるとされる、第一王子の人気をも凌ぐ、とも噂されていた。
「いえ。気難しそうな顔をされてましたけど、大丈夫かしら?」
「えぇ、こちらの話です」
 エミリアがジロジロとメイジを見ている。何か変なものでも付いているのか? そう思うとメイジは少々、落ち着かない。
「……あなたがヒウロさん?」
 エミリアがメイジの顔を覗き込むように言った。それを聞いたメイジが、気まずそうに笑顔を作った。
「いえ、残念ながら。私はヒウロの友人のメイジですよ」
「そう……。でも、何かしら。あなたから、とても懐かしいというか、何か親近感を覚えます」
 エミリアとメイジの目が合った。その瞬間だった。メイジも何かを感じ取った。それが何かは分からない。だが、悪い感じではない。むしろ、エミリアの言う親近感、という言葉がしっくり来る。
「あの、メイジさん。どこかでお会いしましたか?」
 会っていない。全くの初対面である。メイジも姫の名前ぐらいは知ってはいたが、実際に会ったのは今この場だ。
「ごめんなさい。何だか私、変な事を言ってますね」
 照れくさそうにエミリアが笑った。窓から差し込む光が、背まで伸びるプラチナ色の髪を照らしている。
「メイジさん、あなたは魔法使いですか?」
「えぇ、そうです。まだまだ未熟ではありますが」
「やっぱり、魔法使いだったんですね。実は私も呪文が使えるんです」
 エミリアもメイジと同じように、幼い頃から魔力を備えていた。そして、治癒系統の呪文を得意としている。だが、攻撃呪文は一切、扱えなかった。詳しい理由は不明だが、素質の問題ともされていた。
「その呪文で、多くの民を救った、と聞いています」
 エミリは治癒呪文以外にも、呪いを解く呪文や解毒呪文など、聖なる力を持つ呪文も扱う事が出来た。そして、この力を民に惜しみなく使う。そのおかげか、エミリアは民から絶大な支持を得ていた。
「えぇ。これからも、それは変わりません」
 言って、二コリと笑う。
「……あら、ごめんなさい。こんな所で立ち話をさせてしまって」
 ハッとしたようにエミリアが言った。
「いえ。エミリア姫とお話ができ、光栄ですよ」
「どうもありがとう。では、私はこれで」
「えぇ」
 深くお辞儀をして、エミリアは歩いて行った。その背を見ながら、メイジは考えた。目が合った瞬間に感じた親近感。あれは一体? エミリアとは初対面のはずだが、そうではないという気もする。一体、何なのか。
「……いや、考えて分かるものではないか」
 そう呟き、メイジが歩き出す。今は神器だ。そう思い直したのだった。

       

表紙
Tweet

Neetsha