Neetel Inside 文芸新都
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ドラゴンクエストオリジナル
封印のほこら・ルミナス王国〜

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 オリアーはルミナス王国を発ち、神器が封印されている場所に向かっていた。無論、一人である。神器を手に入れるには、封印されている場所へ一人で赴かなければならないのだ。
「セシルさん、大丈夫だと良いんですが」
 呟く。セシルの力は本物だ。オリアーもそれは分かっていた。人々から音速の剣士とも呼ばれている。だが、オリアーは何か嫌な予感がしていた。セシルに関する事なのか、自分に関する事なのか、その判断はつかないが、早く神器を手に入れた方が良い。オリアーは漠然とだが、それを感じ取っていた。
 オリアーがエクスカリバーの束を握りしめる。エクスカリバー。かつて、シリウスと共に魔族を撃ち滅ぼした、王剣である。その王剣は次なる主として、オリアーを選んだ。何故、オリアーを選んだのか。それは今でも分からないが、クラフトが言うにはオリアーは王剣を振るうに相応しい力を持っている、という事だった。
 オリアーは自身の力については、深く考えてはいなかった。興味がない、とはまた違うが、力に固執していないのだ。剣を振るった回数が経験となる。経験を重ねた分だけ強くなる。漠然とそう考えているだけだ。だが、自分が戦士である事については誇りを持っていた。かつての剣聖シリウスもそうであったように、常に勇猛果敢である事。パーティの盾となり、剣となる事。オリアーはこれを誇りとしていた。パーティを守るのは自分の役目なのだ。メイジやヒウロも、そんなオリアーを信頼していた。オリアーが盾となってくれたからこそ、切り抜ける事が出来た場面もある。そうした結果は、オリアーの誇りとなっていた。
「魔族を倒す、ですか」
 オリアーは不意にヒウロの言葉を思い出した。大きな事を言った、と思う。魔族を倒すと言った時のヒウロの顔は、決意で満ち溢れていた。だからこそ、自分も旅に同行してきたのだ。普段はメイジが皆を引っ張っているが、いざという時のヒウロの決断力と行動力は並ではなかった。そして周りの者に、付いて行きたい、と思わせる。ヒウロは勇者アレクの子孫だ。アレクも、そういう所があったのかもしれない。
「そろそろですね」
 地図を見る。ルミナス王国から真っすぐ南下すれば、オリアーの神器が封印されている場所に到着するのだ。
「本で見た地図とは所々、違っている部分もありますが」
 書物庫の地図は何百年も昔のものだった。違っている部分があるのは、当然とも言える。そして、その長い歴史を人間は紡いできた。それを壊そうとする魔族は放ってはおけない。
 どこまでも続く草原の先に、白いほこらが見えた。だが、何かおかしい。不安定と表現すれば良いのか。まるで蜃気楼のように、ほこら全体がユラユラと揺れているのだ。オリアーが地図と照らし合わせる。どうやら、あのほこらが神器が封印されている場所のようだ。
 オリアーが足を止める。白いほこらの前。
「……見間違いではないようですね」
 至近距離から見ても、蜃気楼のようにほこらがユラユラと揺れているのだ。オリアーにとっては何か妙な感覚である。
「よくぞ来た、選ばれし者よ」
 地の底からわいて来るような声。だが、声色は強く優しい。どこから聞こえてくるのか。白いほこらの中からのようだが、空からのような気もする。オリアーはそう感じていた。
「このほこらは、選ばれし者以外には見えないようになっている。無論、魔族にも、魔物にも」
「なるほど」
 オリアーには見える。だが、ハッキリとではない。不安定に見えているのだ。
「選ばれし者よ、中に入るが良い」
 声。言い終えた後、ほこらの扉は、重く低い音を立てながらゆっくりと開いた。

       

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