ルミナス王国。
セシルは一人、王国の守備に回っていた。
「ルミナスは私が守ってみせる」
約束した。ヒウロ達と。そしてヒウロ達はセシルを信頼した。
実際に魔族がルミナスを再度攻めてくるかどうかは分からなかった。だが、誰かが王国の守備として残っておくべきだった。魔族が襲撃して来ないとしても、外敵、つまり魔物の脅威があるのだ。一応、王国のルミナス騎士団が控えてはいるが、人手は多い方が良かった。それに加えて、セシルの知名度は人々に希望を与える。セシルが居る事によって、騎士団の士気も自然と上がるのだ。
「セシルさん、あなたが居てくれるだけで、私たちは安心できます」
声。セシルが振り返る。セシルは王宮のバルコニーで、修復中の城下町を一望していた。
「エミリア姫」
セシルが膝を付く。エミリアはルミナス王国の第一王女なのだ。
「やめてください。あなたは私の家臣ではありません」
エミリアがセシルの手を取り、ゆっくりと立たせる。
「さすがですね。噂に違わぬ美しさと優しさです」
民からの人気も高いわけだ。セシルはそう思った。大概、王族や貴族と言うのは身分が格下の人間をぞんざいに扱う。それを表に出すか出さないかは別の話だが、セシルの知っている身分の高い人間は皆そうだった。
「あなたが来てくれたおかげで、ルミナスは助かりました」
エミリアがセシルの横に立った。そして、城下町に目をやる。風が心地よい。
「……でも、犠牲が出ました」
「えぇ。でも、あなたが来てくれなかったら、もっと被害は大きかったと思います」
事実だった。ルミナス騎士団だけでは、あの魔物の大群には対抗できなかった。ヒウロ達もリデルタ山脈で足止めを食らっていたのだ。セシルがいち早く、ルーラで救援に来たからこそ、被害を最小限に食い止める事が出来た。
「姫からそう言って貰えると助かります」
セシルが二コリと笑う。
「ふふ、笑った顔の方が素敵ですね」
エミリアが言った。セシルの顔が赤くなる。素敵。そのように褒められた事など、一度も無いのだ。
「え、あ、その」
「セシルさんは強いだけじゃなくて、可愛らしさも持っているのですね」
「か、からかうのはよしてください」
そう言ったセシルを見て、エミリアが微笑む。
「そ、そんな事より、また魔族が来るかもしれません」
「えぇ。でも、セシルさんが居ます」
エミリアはセシルの事を深く信頼しているようだった。セシルもそれを感じ取っている。
「……はい」
言って、城下町に目をやった。
セシルはふと、自分の事について考えた。これまで自分は、魔法剣士として名を馳せてきた。人は自分の事を音速の剣士とも呼ぶ。しかし、まだまだ強くならなければ。これ以上、人が死ぬのを見たくないのだ。
世界中の人々を自分が守れたら。セシルは不意にそう思う時があった。もう二度と、過去のような辛い経験をしたくない。
「セシルさん、どうかされましたか?」
エミリアがセシルの顔を覗き込む。セシルが真剣な表情をしている事に気付いたのだ。
「あ、いえ。ごめんなさい。考え事をしていました」
そうだ。過去のような惨劇は繰り返されてはならない。だから強くなる。町を、人々を守る。自分が居る限り、魔族の好きなようにはさせない。セシルはそう思いつつ、再び城下町に目をやった。