Neetel Inside 文芸新都
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 メイジはルミナスを発ち、神器が封印されているほこらに辿り着いていた。道中、魔物との戦闘もあったが、別にどうという事も無かった。しかし、考える事は多くあった。神器の事、自身の力の事もそうだが、エミリアとの会話で感じた、あの親近感が気掛かりだったのだ。しかし、これは考えて分かる事でもなかった。だが、そう思っていても、メイジは考えてしまう。メイジはそういう男だった。
 白いほこら。神器が封印されている場所だ。メイジがほこらの中に入る。心は落ち着いていた。
「よくぞ来た。選ばれし者よ」
 部屋の中央。黒いローブを羽織った男が、一人たたずんでいた。微かに魔力を感じる。魔法使いか。メイジはそう思った。
「……神器を手に入れに来た」
「うむ。だが、そのためには試練に打ち勝たねばならん」
「分かっている」
 メイジの表情が引き締まる。
「汝はどちらの使い手だ? 攻撃呪文か、治癒呪文か」
 どちら? 何かおかしな問いだ。メイジはそう思った。
 メイジは攻撃呪文しか使えなかった。そして、魔法使いと言われる人間は、基本的にはみんなそうだ。だが、メイジはバギ(真空系)の呪文を使う事が出来た。普通の魔法使いは、バギ系の呪文を扱う事が出来ない。こちらの使い手は、治癒呪文を得意とする僧侶になるのだ。そして、バギ系は僧侶が使える唯一の攻撃呪文でもあった。
「攻撃呪文だ」
 疑問に思いつつも、メイジが答える。
「そうか。神器は攻撃呪文の使い手を選んだのか」
「さっきから何の事だ?」
 メイジが問い正す。黒いローブを羽織った男が、メイジに眼差しを向けた。威圧感。メイジがそれを感じ取る。
「今、汝が手に入れようとしている神器は、二つの特性を持っている。正の特性と負の特性の二つだ」
 男が説明を続ける。
 二つの特性。すなわち、正の特性と負の特性だ。前者は治癒・修復を、後者は殺傷・破壊を司るという。神器は、その使い手となり得る人間を二人としていた。一人は治癒系呪文のみ。一人は攻撃呪文のみ。その時々によって、神器の使い手はこのどちらかに絞られるというのだ。
 すなわち、神器がその時に必要とされている力を判断する。正の力か、負の力か。このどちらかを神器が判断した上で、真の選ばれし者が決定するのだ。メイジは攻撃呪文の使い手。つまり、神器が今必要だと判断したのは、負の力だ。
「魔族が復活した。ならば、負の力となる事は必然。だが、汝が神器の使い手にふさわしいかは別の話だ」
 選ばれし者であろうとも、力が足らなければ何の意味も無い。神器を扱うには、それ相応の力量が求められるのだ。
「汝は神器を扱うに相応しいのか? 魔力と英知。この二つを兼ね備えているのか?」
 男のローブがゆらゆらと揺れ始める。魔力。凄まじい限りだ。メイジが息を呑む。
「神器より生み出されし賢者、我、カリフが汝を試すとしよう」
 波動。魔力がカリフの全身を覆っている。今までに感じた事のない、凄まじい魔力だ。
「神器を手に入れたければ、我を倒す事だ。全力で戦え。無論、我も全力で戦う。汝を殺すつもりでな」
 瞬間、全身を覆っていたカリフの魔力が解き放たれた。
「見事、神器を手に入れてみせよッ」
 カリフが右手を突き出す。呪文の構えだ。来る。メイジが身構えた。

       

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