Neetel Inside 文芸新都
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 メイジの身体はボロボロになっていた。カリフのイオナズンのダメージだ。マジックバリアで少しでも威力を減らそうと考えた。だが、その考えは甘かった。カリフのイオナズンはメイジの想像を超えていたのだ。
「まさか、本当に上等級呪文が使えないのか?」
 カリフの声に怒気が混じっていた。上等級呪文も使えない状態で、試練に挑んできたのか。そう思うと、腹が立ったのだ。
「……今は使えないだけだ」
「ナメているな、貴様ッ」
 右手。イオラ。メイジが吹き飛ぶ。
「貴様はすでに試練に挑んでいるのだ。もう後戻りはできん。死ぬか神器を手に入れるかだ。だが、貴様の今の力量」
 低すぎる。中等級呪文までしか使えないのだ。話にならん。カリフの中で怒りが渦巻いている。
 メイジは必死に考えていた。中等級呪文の応酬では、力は互角だった。つまり、魔力は互角なのだ。要は呪文のランクが違う。魔力は互角。ここが引っ掛かる。カリフと同等の魔力を備えているのに、何故自分は上等級呪文が使えない? 使えない原因を探る。魔力が足りないのだ。ここだ。ここに矛盾が生じている。カリフと自分の魔力は同等。しかし、カリフは上等級呪文が使える。
「貴様には失望した。神器は何故、貴様を選ばれし者としたのだ? 話にならんではないか」
 両手。エネルギーが集約されていく。イオナズンだ。カリフはこの一撃で、メイジを消し飛ばすつもりなのだ。
 メイジが考える。メイジは上等級呪文を今までに何度か見てきた。最近の話なら、魔族のファネル。そして、目の前のカリフだ。ファネルは上等級呪文であるマヒャドを左手で撃っていた。一方のカリフは両手だ。ファネルは魔族。カリフは神器から生み出された人間。さらにメイジが考える。カリフは中等級呪文を片手で撃っていた。これは自分と同じだ。ここだ。メイジはそう思った。
「……中等級呪文は片手。ならば、上等級呪文は」
 メイジが立ち上がった。杖を地面に突き刺し、集中する。魔力を高めるのだ。気炎が立ち昇る。右手と左手に魔力を集約させる。両手。これが鍵なのだ。上等級呪文を撃ち放つには、片手では魔力が足りない。両手の魔力が必要なのだ。
「選ばれし者よ、消し飛べッ!」
 閃光。イオナズンだ。瞬間、メイジが魔力を解放させた。両手。突き出す。
「イオナズンッ」
 刹那、閃光。交わる。大爆発。轟音が鳴り響き、地が揺れた。黒煙が巻き上がる。
「……貴様、我を弄んでいたのか?」
 カリフの声。怒り。相殺していた。カリフのイオナズンを。
「言っただろう。今は使えないだけ、とな」
 メイジが二ヤリと口元を緩めた。額には大粒の汗が浮かんでいる。ギリギリだった。考えがまとまったのも、答えが見つかったのも、イオナズンのタイミングも。全てがギリギリだったのだ。心臓の鼓動が激しい。だが、そのギリギリでメイジは新たな力を得た。
「……フン。さすが、と言っておこう。これで我と比肩する事になった」
 カリフがメイジを睨みつける。カリフは冷静に考えた。メイジは一度目のイオナズンをマジックバリアで防ごうとした。あれに意味はあったのか? おそらくは無い。カリフはそう思った。純粋にイオナズンの威力を少しでも弱めようとしただけだろう。つまり、あの時点では上等級呪文は使えなかった。そして、次のイオナズンまでの時間。この間に、上等級呪文が使えるようになった。詳しい過程までは分からないが、結果だけを見れば相当なものだ。
「……神器が選ばれし者とするわけだ」
 カリフは自らの気を引き締めた。

       

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