Neetel Inside 文芸新都
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「いつまで手加減しているんですか。早く本気で戦ってくださいよ」
 ダールの小指一本。セシルの魔法剣がさばかれる。
「まだですか?」
 ダールが小指を軽く払った。瞬間、セシルが吹き飛ばされた。家屋に叩きつけられる。
 強すぎる。いや、そんなレベルではない。次元が違うのだ。蟻が恐竜に立ち向かおうとしているのと何ら変わりがない。セシルはそう思った。
「何かとっておきの技があるんじゃないですか? それを使ってみたらどうです」
 セシルが魔法剣を杖に立ち上がる。すでに息が荒い。
 とっておきの技。魔法剣技エアロブレイド。セシルが今扱いうる魔法剣技の中で、最大の威力を持つ必殺技だ。しかし、この目の前の魔族には、ダールには通用しない。セシルはそう思った。いや、それ以前の問題だ。自分など簡単に殺される。
「……良いわ、見せてあげる」
 言って、セシルは魔法剣を振り上げた。どうせ殺されるのなら、全てを出し切ってやる。そう考えたのだ。
「ヒウロ、メイジ、オリアー……そしてエミリア姫、ごめんなさい」
 ルミナスを守れなかった。魔法剣。頭上で円を描く。
「エアロブレイドッ」
 エメラルド色に輝く衝撃波。ほとばしる。
 ダールが左腕を前に突き出した。そして払う。人差し指、中指の二本。瞬間、衝撃波が消し飛んだ。何も無かったかのように、消し飛んだ。
「……オリアー、ごめんなさい」
 あなたともっと話がしたかった。セシルが力無く、その場にへたれ込んだ。
「これでお終いですか。所詮はクズ。まぁ、さほど期待もしていませんでしたがね」
 ダールが歩き出した。
「……殺して」
 セシルの声に力は無かった。
「何を言っているんですか? 私はあなたを殺しはしませんよ」
 言って、右手でセシルの頭を掴んだ。
「何をするの……!」
 セシルが苦しそうに言った。激しい頭痛。吐き気。気が狂いそうだ。
「あなたを魔族にするんですよ」
「なっ!?」
 瞬間、ダールの右手が漆黒に包まれる。バチバチと音を立て、禍々しい闇の気がセシルの身体を包み込んだ。
「あなたは生まれ変わるんです。音速の剣士さん」
 ダールは笑っていた。闇の気がセシルの身体を貫いていく。
 セシルの叫び。白目を剥き、ガクガクと全身が痙攣している。全ての闇の気がセシルの身体を貫くと同時に、黒い気が一気に解放された。
「……さて。あなたは何者ですか?」
 ダールがセシルの頭から右手を離す。
「……私の名はセシル。死の音速の剣士」

       

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