Neetel Inside 文芸新都
表紙

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「まさか……あなたが」
 ヒウロが言葉を詰まらせた。目の前に居るこの壮年の男。優しい瞳。温もりが溢れ出ている。そして、この瞳をヒウロは知っている。
「神器を手に入れるのだろう。自らの運命を受け入れろ。そして、私を超えるのだ」
 男が背の長剣の束に手を掛けた。白銀の鎧が、日光を照り返している。
「私の名はアレン。神器を守護する者なり。ヒウロ、お前は真の勇者となるのだろう。魔族を倒すのだろう」
 ヒウロの唇が震えていた。この目の前に居る男は、自分の父ではないのか。確たる証拠は無い。だが、感覚がそう言っている。アレクの血が共鳴しているのだ。未だかつて、こんな感覚は味わった事がない。
「私を超えろ」
 アレンが剣を抜いた。白銀の刀身。黒いマントが風で揺れている。
「何故、ですか」
 ヒウロが背の稲妻の剣の束に手を掛けた。
「何故、俺の目の前から消えたんですか」
 声が震えている。自分の父なのか。だが、魔族を倒さなければならない。父と戦う。これが神器を手に入れるために、乗り越えなければならない試練と言うならば、受け入れる。そして打ち勝つ。
「ヒウロよ、これが運命なのだ。……しかし、強く育った。情に流されず、大局をしっかりと見極めている」
 父。ヒウロが感じている通り、アレンはヒウロの父親だった。そして、ヒウロの決意。父として喜ばしかった。だが、アレンは口には出さない。いや、出せないのだ。自分に父と名乗る資格はない。ヒウロを赤子の状態で捨て去り、自身は神器の守護者となった。例え、それが望んでいない事であっても、自分がした事は親として間違っている。アレンはそう考えていた。
 アレンは神器から、自分の息子、つまりヒウロが選ばれし者であるという事を知らされていた。いつか、息子と戦う時が来る。アレンは今の今まで、ヒウロを待っていた。息子の姿、声、志。親として掛けたい言葉が次々に溢れ出て来る。しかし、アレンはそれらを全て飲み込んだ。今はヒウロの父ではなく、神器の守護者なのだ。
「ヒウロ、私を超えてみせろッ」
「……俺は、俺は」
 ヒウロが稲妻の剣を抜く。バチバチと電撃が鳴いている。今のヒウロの心情を現わしているかのように、悲しげに鳴いている。
「魔族を倒さないといけないんだ。なんであなたが神器を守っているのかは分からない。だけど、あなたを倒さなければならないと言うのならッ」
 構える。電撃が悲鳴を上げた。駆ける。
「強くなった。それでこそ」
 我が息子だ。アレンが心の中で言った。
 交わる。電撃。白銀の剣。きらめく。剣と剣が交差し、何度も火花と電撃が散っていく。
「剣の腕は悪くない。だが、まだ甘さが垣間見えるぞッ」
 アレンが剣を横に薙ぐ。
「くっ」
 ヒウロが剣を縦に構えて受け止めた。電撃が飛び散る。
「距離感が甘い!」
 アレンが懐に飛び込んだ。ヒウロは剣が振れない。瞬間、ミゾオチ。柄がヒウロの腹にめり込んだ。呻き声。さらに回し蹴り。ヒウロの身体が吹き飛ぶ。地面に投げ出され、その場でせき込んだ。呼吸が出来ない。
「メラゾーマッ」
 メラ(火球系)上等級呪文。間髪入れずに撃ち放つ。ヒウロの表情が歪んでいる。剣を杖に横に飛んでかわした。アレンが駆けてくる。速い。立ち上がる。剣と剣が交差する。ヒウロが左手を突き出した。
「ベギラマッ」
 火炎。首をひねってアレンがかわす。同時にヒウロの稲妻の剣を弾き飛ばした。距離を取る。
「ベギラゴンッ」
 ギラ(火炎系)上等級呪文だ。ヒウロの足元に向けて放った。燃え盛る炎が生き物のようにうねる。
 レベルが違いすぎる。アレンとヒウロでは、戦闘レベルの次元が違っていた。接近戦・遠距離戦共にアレンの独壇場なのだ。どうにかしなければ。ヒウロが必死に考える。
「……ライデイン……!」
 ヒウロの頭には、これが浮かんでいた。

       

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