Neetel Inside 文芸新都
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「……私の名はセシル。死の音速の剣士」
 セシルの目は殺意に満ち溢れていた。全身に邪気を纏わせている。その様は人間ではなく、まさに魔族と言うに相応しかった。
「そうです。あなたは死の音速の剣士。人間という名のクズを殺し尽くすために存在する魔族です」
「分かっている。だが、頭が痛い……! 一体、何故だ……!?」
 セシルが片手で頭を押さえている。ズキズキと頭に何かが突き刺さるかのような痛みを感じているのだ。
「人間を殺していないからですよ。ほら、ここにはクズがたくさん居ます。殺してみなさい。破壊してみなさい。そうすれば、痛みは消え去りますよ」
 ダールが口元を緩めながら言った。甘い口調。まるで赤子をあやすような、優しい口調だった。
「……わかった」
 セシルが歩き出す。次いで魔法剣を作り出した。だが、その色は清らかなエメラルド色ではない。邪気に満ちた、深く妖しい紫色だった。
 その時だった。
「ダールよ」
 声。ダールの頭の中で声が響いた。
「これはこれは。ディスカル様」
 声の主。それは魔王ディスカルだった。
「音速の剣士の首尾はどうだ?」
「ご安心を。これからルミナスは地獄と化します」
 ダールがセシルの背を見ながら言った。口元は緩んでいる。
「そうか。ならば、ルミナスはもう良い。急いで、魔界に戻ってくるのだ」
「? ルミナスが破壊されていく様を見ないのですか?」
 ダールが不思議そうに尋ねた。それもそのはずだ。元々、ダールが人間界に降り立った目的は、セシルを魔族側に引き込み、ルミナスを破壊させる、というものだったのだ。音速の剣士という人類の希望がルミナスを破壊し尽くす。それは素晴らしい眺めとなるはずだ。そして、アレクの子孫。あわよくば、音速の剣士との戦いが見られる。だが、ディスカルはもうそれには興味が無いようだった。
「音速の剣士とは比にならん大物が居るのだ。急いで戻ってこい」
「ほほう。それは」
 二ヤリと笑う。ダールの心が逸った。
「……死の音速の剣士、セシルよ」
 ダールがセシルに呼び掛ける。
「ルミナスの破壊、頼んで良いですね?」
「任せろ」
 背を見せたまま、セシルが答えた。邪気が溢れ出ている。間違いない。これなら破壊し尽くす。ダールはそう思った。
「クク。では、頼みましたよ」
 言って、ダールが姿を消した。魔界へと戻るのだ。
 魔界。王の間。ディスカルは玉座に座っていた。
「ただいま戻りました」
 その場でダールが跪く。
「あぁ。御苦労だったな」
「いえ……。それより、音速の剣士とは比にならない大物とは?」
「……まだ何とも言えないが、おそらくはアレクの子孫」
 ディスカルが言った。
「……? どういう事です」
「私にも確かな事は分からん。透視が出来ないのだ。聖なる力によって妨害されてな。だが、私の予想が正しければ……」
 ディスカルの瞳は、氷のように冷たかった。

       

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