Neetel Inside 文芸新都
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ドラゴンクエストオリジナル
燃えるルミナス王国〜

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 ヒウロはアレンのバシルーラによって、ルミナス周辺の草原に吹き飛ばされていた。空間追放呪文、バシルーラ。その効果は、強制的に対象者をどこかへ吹き飛ばすというものだが、アレンはある程度、その場所をコントロールしたようだった。
「赤い髪、黒いローブ……。あれは一体?」
 ヒウロが呟いた。アレンとの戦闘中の出来事だ。
 アレンとヒウロの勝負自体はすでに決着がついていた。ヒウロの切り札であるライデインがアレンには通用しなかったのだ。そしてアレンは、ヒウロに自分を超えろ、と言った。その物言いはどこか悲痛で、心の叫びのようにも聞こえた。
 そんな時、ほこらの入り口が吹き飛ばされた。そこから出てきたのは、赤い長髪を生やし、黒いローブを着た何者かだったのだ。次の瞬間、ヒウロはバシルーラで吹き飛ばされた。何が起こったのか。ヒウロはそう思った。
「……俺は、弱い」
 ヒウロはアレンとの戦闘で、自分の弱さを実感していた。剣も呪文も、切り札であるライデインすらも通用しなかったのだ。本当に自分は勇者アレクの子孫なのか。神器に選ばれし者なのか。ヒウロは何度も自問した。だが、答えは出ない。いや、強くなるしかない。ヒウロはそう思った。
 ふと、何かが崩れる音が聞こえた。音は遠い。ヒウロが顔をそちらの方に向ける。黒煙。ルミナス王国から、黒煙が巻き上げられていた。
「あれは……!?」
 まさか魔族か。襲撃されているのか。だとすれば、いつから。セシルは? 様々な疑問が浮かんでくる。
「助けにいかないと」
 だが、神器が。ヒウロは一瞬、考えた。だが、すぐに答えを出した。ルミナス王国だ。神器はその後で良い。
「セシル……今行く!」
 ヒウロが走る。

 妖しく紫色に輝く魔法剣が、人々を、ルミナスを地獄へと誘(いざな)おうとしていた。
 死の音速の剣士。セシルはダールの手によって、おぞましい変貌を遂げていた。全身に邪気を纏わせ、その目からは殺意が満ち溢れている。
 魔王ディスカルの側近、ダール。ダールは特殊な力を持っていた。その力とは、闇の力によって人の光の心を食い潰し、人間を魔族へと変化させる力だ。そして変化に伴い、その対象者の記憶までも改変させられる。人間の時の記憶が、魔族の記憶に塗り替えられるのだ。
「アハハハ!」
 セシルが笑う。その声からは、どこか狂気を感じさせていた。
「お、お、音速の剣士様……! そ、そんな」
 町人。腰が抜けている。ズリズリと後退りしながら、恐怖で顔を歪ませる。
「ここにもクズが居たか」
 セシルが口元を緩めた。
「ど、どうして」
「どうして? アハハハ! 何を言ってる?」
 セシルが魔法剣を振り上げる。
「死ね、クズ」
 振り下ろす。刹那、火花が飛び散った。魔法剣が弾き飛ばされたのだ。
「セシル、何やってるんだ!?」
 稲妻の剣。ヒウロだ。町人の前に立ちはだかる。
「なんだ、お前は」
「……? セシル?」
「私の名を気安く口にするな。ゴミクズがッ」
 違う。いつものセシルじゃない。どうなってる。ヒウロはそう思った。

       

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