Neetel Inside 文芸新都
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 ルミナスが炎の渦に飲み込まれていた。家屋が燃えるパチパチという音と共に、無数の火の粉が蛍の光のように宙を舞っている。
 雷撃と衝撃波がぶつかり合っていた。ヒウロのライデインと、セシルの魔法剣技だ。
 ダールの手によってセシルは、その身体と精神を魔族へと変えられてしまっていた。無論、ヒウロはそんな事を知るはずもない。目の前に居るセシルは、本物じゃない。セシルに化けている魔族だ。ヒウロは自分にそう言い聞かせた。そして、戦う事を決意した。
「ライデインよ、いけぇッ」
 ヒウロが叫んだ。雷撃を押し込む。瞬間、衝撃波と雷撃が同時に消し飛んだ。互いの魔力が波紋のように空間を伝わって行く。それが風となり、炎を煽った。
「あの雷撃……!?」
 セシルが片膝をついた。片手で頭を押さえる。頭痛だ。何かが頭を突き刺す。
「なんだ、この痛みは!?」
 セシルの魔法剣が消える。両手で頭を押さえた。頭が割れる。何なんだ。セシルの息が荒くなる。
 あの雷撃。ライデイン。真の勇者のみに扱える聖なる呪文。自分なら、魔族なら、忌み嫌う呪文のはずだ。セシルはそう思った。しかし、この懐かしさは一体。いや、待ち望んでいた、という方が正しい。助けて欲しい。心の奥底で誰かがそう言っている。
「うるさいッ! 私は魔族だ!」
 魔法剣を作り出す。
「私は魔族なんだ! 死の音速の剣士、セシルだッ」
 魔法剣を頭上に掲げ、円を描いた。魔法剣技だ。
「私の前から消えろぉッ」
 振り下ろす。闇の衝撃波がヒウロに向かってほとばしる。
 セシル。やはりセシルなのか。ヒウロはそう思った。頭を押さえているセシルの姿は、どこか哀しかった。そして、助けを望んでいた。
「……セシル」
 ヒウロが剣を天に突き上げる。ライデインだ。二発目、そして連続使用。撃てるのか。ヒウロが考える。撃ったとして、その後に戦闘可能なのか。
「でも、ここでやられるわけには行かない」
 ヒウロは決断した。その時だった。
「空裂斬ッ」
 闘気の旋風。ヒウロと衝撃波の間に割って入った。衝撃波の軌道を捻じ曲げる。衝撃波はヒウロの横を通り過ぎ、瓦礫の山を吹き飛ばした。
 この声。ヒウロが闘気の元へ顔を向けた。
「オリアー!」
 青の鎧と兜。腰にエクスカリバー。そして、右手には。
「神器? オリアー、神器を手に入れたのか!」
「神剣・フェニックスソードです。ヒウロ、遅れました」
 オリアーが言った。そして、セシルの方に顔を向ける。
「……セシルさん」
 やはり。オリアーはそう思った。オリアーはずっと嫌な予感がしていたのだ。
「うぐっ……! ま、また頭痛だ……! お前たちは一体!?」
 セシルが呻く。その表情は強く歪んでいた。

       

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