Neetel Inside 文芸新都
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 セシルを助ける事が出来るかもしれない。メイジのこの言葉に、ヒウロとオリアーが期待を乗せる。
「ここはお前達に任せて良いか?」
 メイジが言った。
 セシルを助けるには、エミリアをこの場に連れてくる必要があるのだ。エミリアの正の力でセシルを救う。そして、それが出来るのはエミリアを除いて他に居ない。これはメイジにとって、確信に近いものだった。
「セシルさんは助かるんですね?」
 オリアーが言う。目は真剣だ。
「あぁ。おそらくだがな」
「……分かりました。ここは僕達に任せて下さい」
 オリアーのこの言葉に、ヒウロも頷いた。
「あぁ、頼む」
 言いつつ、メイジがヒウロの元へ歩み寄る。そして、右手をヒウロの肩に添えた。
「マホイミ」
 瞬間、ヒウロの魔力が大きく回復した。これでライデインが撃てる。
「……すぐに戻ってくる」
 メイジが走った。直後、背後で金属音が鳴る。戦闘を再開したのだ。だが、メイジは振り返らない。今、自分がすべき事をやるだけだ。メイジはそう思った。
 メイジは走りながら、エミリアの事を考えていた。神器が封印されしほこらに行く前、エミリアと会った。そして、会話をした。そこで感じた親近感。それは、神器によって結ばれた一つの運命だったのか。エミリアも選ばれし者の一人だったのだ。しかし、神器はメイジを選んだ。だが、皮肉にも今必要なのはメイジの力ではなく、エミリアの力だった。エミリアの正の力で、セシルを救わなければならないのだ。
 しかし、メイジは不安を抱えていた。エミリアを見つけたとして、本当にセシルの元へ連れ出す事が出来るのか。エミリアはルミナス王国の第一王女だ。そんな高貴な身分の人間を、戦闘の場に連れ出せるのか。
「一つの賭けだな」
 メイジが呟いた。
 城門に辿り着いた。ルミナス騎士団の兵が入口を封鎖している。
「すまない、城に入れてくれ」
「おぉ、あなたは。ご無事でしたか。しかし、これは一体どういう事なのです?」
 兵が言った。ヒウロらは王宮を自由に出入りできるようにされていた。当然、入口の警備をしている兵もそれは知っている。
「説明している時間が惜しい。とにかく、城に入れてくれ」
 強引に押し入る。
「エミリア姫はどこだ」
 走った。さすがに王宮には火の手は届いていないようだ。だが、城下町は燃え盛っている。王宮の廊下は、城下町から逃げてきた住民達で溢れかえっていた。涙を流す者、呆然とする者、恐怖で震える者。様々な住民が居た。
「みなさん、気を強く持ってください。すぐに助けが来ます。勇者アレクの子孫である、ヒウロさんが来てくれます」
 この声。清く美しい声だ。だが、芯の強さも感じさせる。
「エミリア姫だ」
 メイジが声のする方へ向かって走る。居た。エミリア姫だ。住民達を元気付けている。
「エミリア姫!」
 言って、メイジがその場で平伏した。
「あら、あなたは。メイジさん?」
「そうです。姫、お願いがございます」
 ありのままを話す。それが一番だ。メイジはそう思った。エミリアは芯が強く、清廉な人物だ。下手に誤魔化して説得するよりも、真実をそのまま話して助けを求めた方が良い。
「仲間を、セシルを助けて下さい」
 メイジが言った。平伏はしたままだった。

       

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