「セシルさんっ」
オリアーがセシルに呼び掛けた。しかし、返事はない。表情は苦痛に歪んだままだ。オリアーがセシルの上半身を抱き起こす。
「セシルさん」
もう一度、呼び掛けた。すると、セシルの眉が微かに動いた。
「……うぅ」
声が漏れる。オリアーがセシルの肩を強く握った。目を開けてください。心の中で呟く。そして。
「オリ……アー?」
セシルが微かに目を開けて、かすれるような小さな声で言った。
「セシルさん……!」
オリアーが目を強く瞑り、震えつつ言った。良かった。オリアーは心からそう思った。エミリアが大きく息を吐く。ヒウロが笑顔を作り、メイジがオリアーの肩に手を置いた。
「やったな、オリアー。エミリア姫に感謝しろよ」
メイジはそう言いつつ、口元を緩めた。エミリアは微笑んでいる。
「……私は、大変な事を……」
セシルが震えだした。そして、涙を流す。
セシルは、今まで自分が何をやっていたのかを記憶していた。ルミナスを破壊した事、民を殺した事、オリアー達と戦った事。闇の力に支配されている時にしていた事の全てを、セシルは覚えていたのだ。そして、それらをやっている時、セシルは快楽を感じていた。
特に、ルミナスの破壊と民を殺している時、セシルは快楽で狂いそうになっていた。もう一人の自分とでも表現すれば良いのか。闇の力によって、そのもう一人の自分が形成されたのだ。そのもう一人の自分と、セシルは心の中で懸命に戦った。だが、勝てなかった。破壊する快楽。殺す快楽。これらに屈しようとしていた。そんな時、ヒウロやオリアー、メイジが現れた。そして、エミリアに助けられた。
「……私は、どうすれば良いの……」
セシルが泣きながら言う。その声は悲痛だった。
「記憶が、あるんだな?」
メイジが言った。
「……とりあえず、俺達は王に報告に行こう。エミリア姫、良いですね?」
メイジの言葉に、エミリアは困惑したように頷いた。セシルの事はそれだけで済ませるのか。確かにメイジの判断は正しいのかもしれない。でも、余りにも冷たすぎる。エミリアはそう思ったのだ。
「オリアー、お前はセシルの傍に居てやれ」
メイジが言う。セシルはプライドの高い女だ。真に心を許した人間以外に、弱い所を見せたくないだろう。メイジはそう考えたのだった。そして、セシルにとってオリアーは、本当に心を許している仲間だった。
「でも、メイジさん」
ヒウロも困惑している。
「二人にしてやれ。それが、今のセシルにとって一番良い」
メイジが言った。そして、エミリアもメイジの意図を読み取った。
「……お優しいのですね」
メイジが照れくさそうに俯く。
「さぁ、王宮に行きましょう」