Neetel Inside 文芸新都
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 ヒウロとメイジは、エミリアと共に王宮へ赴き、ルミナス王へ事の成り行きを報告していた。セシルの件。さすがに王もこれには怒りの色を示した。しかし、ヒウロ達を責めても仕方がないと判断したのか、すぐに冷静に戻った。憎むべきはヒウロ達ではなく、魔族なのだ。
 エミリアを連れ出した件についても、王はそれほど怒りを感じているようではなさそうだった。王が納得できる結果だったのだろう。そして何より、エミリアがヒウロ達を上手く擁護したのだった。
 一方のオリアーとセシルは、城下町の空き家を借り、そこで休息を取っていた。特にセシルは闇の力に支配されていた事もあり、精神的な疲労が激しい。それに加え、ルミナスで自分がした事に恐怖し、絶望を感じていた。
 ルミナスの城下町はひどい有様だった。半壊状態なのである。修復するにしても、ずいぶんと時がかかるだろう。民も多く死んだ。そして、人々は恐怖を刻み込まれた。本当に魔族に勝てるのか。勇者アレクの子孫の力で、魔族を滅ぼせるのか。この疑惑を抱くには、今回の件は十分すぎる程の出来事だった。
 メイジとヒウロは王への報告を終え、オリアーとセシルの居る空き家へ戻った。エミリアも一緒だ。セシルの様子を見に来たのである。しかし、椅子に座ったまま、セシルは憔悴していた。罪悪感で自分を失いかけているのだ。その様子を、オリアーは黙って見ていた。いや、そうする事しか出来なかった。今のセシルには、どんな言葉も意味を成さないのだ。
 セシルは考えれば考える程、自身の罪悪感が膨らんでいくのを感じていた。許されるはずがない。こんな自分が生きていて良いはずがない。死ぬべきだ。セシルはそう思った。
「……死んで償うしかない」
 呟いた。そして魔法剣を作り出す。
「!? おい」
 メイジが目を見開いた。セシルが魔法剣を自分の喉元に向ける。死ぬ気だ。セシルが目を瞑る。やめろ。メイジとヒウロがそう叫んだ。次の瞬間、一本の剣が魔法剣を消し飛ばした。白銀の刀身、王剣・エクスカリバーだ。
「何をする気ですか」
 オリアーが言う。声は静かで落ち着いていた。しかし、哀しみの色がある。
「死なせて」
 セシルの目から涙が溢れ出した。
「……セシルさん、確かにあなたがやった事は許される事ではないかもしれません」
「死なせて欲しい……!」
「死んだからと言って、その罪が償われるのですか。きっと、それは違う。僕はそう思います。生きて償うんです。魔族を滅ぼすんです」
 オリアーがエクスカリバーを鞘に納める。
「セシルさん、話してください。このルミナスに魔族が来たはずです。その時の出来ごとを、話してください」
 オリアーが声を絞り出すようにして言った。セシルの気持ちは痛いほどに分かる。だが、魔族を滅ぼさねばならない。そのためにも、セシルの力は必要だった。そして、セシルが対峙した魔族。その魔族は何者なのか。それを知る必要がある。
「……私は」
「セシル。オリアーの言う通りだ。お前が今ここで死んだとして、喜ぶのは魔族だけだ」
 メイジが言った。
「俺達と一緒に行こう。そして、魔族を倒すんだ」
 ヒウロのこの言葉に、メイジとオリアーが頷いた。
 沈黙。セシルは俯いたままだ。涙が点々と床に落ちている。だが、セシルの心は決まっていた。オリアーの言葉が、セシルに決心をさせたのだ。生きて償う。今、自分に出来る事はそれだけだ。セシルはそう思ったのだ。
「……私が対峙した魔族は、赤い長髪を生やし、漆黒のローブを身にまとっていた」
 セシルが口を開いた。赤い長髪。漆黒のローブ。ヒウロがハッとした。
「そんな、まさか」
 ヒウロの唇は震えていた。

       

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