Neetel Inside 文芸新都
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 一方、魔界ではダールが魔族化させたアレンを王の間に連れ出していた。魔族の王、ディスカルと面会させるためだ。
「……お前の名は?」
 左右に女魔族を侍らせているディスカルが静かに言った。アレンの姿をジッと見つめる。凄まじい力だ。ディスカルはそう思った。四柱神の力など、ゆうに超えている。勇者アレクの子孫である潜在的な力に、ダールの闇の力が加わったのだ。さらに力を開花させれば、側近であるダールにすら逼迫する可能性がある。
「アレン。闇の勇者」
 そう言い、アレンが不敵な笑みを浮かべた。目に殺気をこもらせている。今にもディスカルに飛び掛かりそうな殺気だ。
「お前の主は誰だ? 言ってみろ」
 ディスカルがアレンを睨みつけた。殺気を感じ取ったのだ。
「我に主など居ない。我が最強だ」
 瞬間、アレンの身体から憎悪と殺気が吹きだした。陽炎の如く、アレンの全身が揺らめき出す。
「……ダール、しっかりと躾をしておけ」
 ディスカルが立ち上がった。拳を握り込む。
「クク、申し訳ありません」
 ダールが一歩、後ろへ下がった。
「貴様が魔族の王か。我がその椅子に座る。どけ」
「間抜けめ。貴様のようなゴミ屑が私に楯突くか」
「ゴミ屑?」
 アレンの目が血走った。
「我を愚弄するなッ」
 飛び掛かる。同時に剣を抜いた。
「思い知らせてやる。誰が王なのかをな」
 ディスカルの髪が揺れた。アレンが大きく剣を振りかぶる。ディスカルを斬るつもりだ。次の瞬間、アレンの剣はディスカルではなく、その隣の女魔族に向かって振り下ろされていた。女魔族の身体が綺麗に縦に両断される。
「……!?」
 アレンが困惑した。すぐに横に居るディスカルへ向かって剣を薙ぐ。今度こそ。アレンはそう思った。しかし、またもや剣はディスカルではなく、もう片方の女魔族に向かって振られていた。
「そんなに女魔族が憎いのか?」
「き、貴様……!」
 アレンが思わず距離を取った。剣を天に突き上げる。
「我の力を思い知れッ!」
 アレンの剣が、色濃く濁った紫色に輝き出した。闇のエネルギーが溢れ出す。闇のいかずち。暗黒の稲妻。
「ジゴスパークッ」
 閃光。次の瞬間だった。
「バ、バカ……な」
 アレンは、自身の身体をジゴスパークで貫いていた。訳がわからない。アレンがその場で倒れ伏した。気を失ったのだ。アレンの全身は焼かれ、煙が巻き上がっていた。
「ダール」
 ディスカルが王座に座りつつ、ダールの名を呼んだ。ダールがその場で跪く。
「そろそろ、人間界の国を一つ滅ぼすぞ」
「……それはそれは。本格的に始まるのですね。ゴミ掃除が」
「あぁ、そうだ。そして、勇者アレクの子孫らを魔界に呼び寄せる」
 ディスカルが頬杖をついた。
「ほう?」
「私が思うに、奴らは何らかのパワーアップを果たした。士気、機会ともに揃ったと言って良いだろう。だが、まだ力を隠し持っているはずだ」
「では、どうされるのです?」
「アレンとビエルに国を襲撃させるのだ。そして、アレンに勇者アレクの子孫らの相手をさせる」
「……それは、面白い事になりそうですね。しかし、あのビエルですか」
 ダールのこの言葉に、ディスカルが二ヤリと笑った。
「そう、あの狂人だ」
 ビエルはディスカルのもう一人の側近だった。ダールと並ぶ実力の持ち主だが、性格に問題があった。一言でいえば、狂人だ。そのビエルを人間界に送り込む。これがどのような結果を生むのか。ディスカルは、その結果をすでに見通しているかのようだった。

       

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